法律Q&A

分類:

会社分割と36協定等の関係

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2008年5月補正:掲載

労基法等により有効要件が定められている36協定、育児介護協定等の労使協定の効力は分割によってどうなるのでしょうか?

A社は会社分割により、そのA1営業部問を新設するB社に承継させようと考えています。その際、分割に伴い、A社がA1事業場でA社のa労組と締結していた36協定、育児介護協定等の労使協定の効力などはB社に分割された後、どのように取扱えば良いのでしょうか?

回答ポイント

労基法等による労使協定は、設立計画書等の記載によって承継されることはありませんが、分割後の承継会社等の当該事業場の同一性が保たれていれば承継され、保たれていない場合は、所定の手続に従がい、新たに過半数代表を選出し労使協定を締結する必要があります。

同様の問題は、労働組合法17条の一般的拘束力や同法7条1号ただし書のいわゆるショップ制に関しても起こりますので注意が必要です。

解説
1.労基法等により効力発生要件が定められている労使協定の効力
(1)設立計画書等への記載との無関係
労働基準法上の36協定(労基法36条)、賃金控除協定(同24条1項)、事業場外みなし労働時間協定(38条の2第2項)、フレックスタイム協定(32条の3)、裁量労働協定(38条の3)、計画年休協定(39条5項)等の労使協定や育児・介護休業法上の休業対象者の除外協定(6条1項、12条2項)等の様々な労使協定について、承継法8条に基づく「分割会社及び設立会社等が講ずべき当該分割会社が締結している労働契約及び労働協約の承継に関する措置の適切な実施を図るための指針」労働省告示平成12年127号(<以下、旧指針ともいいます>及び会社法施行に伴う改正18・4・28厚労告343号。以下、承継指針といいます)は、民事上の権利義務を定めるものではないため、分割会社が分割計画書等に記載することにより設立会社等に承継させる対象とはならない、としています。

(2)事業場の同一性の有無による労使協定承継の有無
更に、承継指針は、これらの労使協定については、会社の分割の前後で事業場の同一性が認められる場合には、引き続き有効であると解され得るものであるとしています。しかし、事業場の同一性が失われた場合は、該当する労働基準法上の免罰効が失われることから、当該分割後に再度、それぞれの規定に基づいて労使協定を締結し届出をする必要があるとしています。ここでの「事業場の同一性」が何を基準として判断されるかについては達等で明らかにされてはおらず、裁判例もありませんが、一般的には、会社分割による法人格の変更を除く、人的・場所的・事業実態の実質的同一性のことを示しているものと思われます。従って、たまたま後述(9-6-6参照)の異議申出等により一部の労働者の変動があっても、それが過半数等の要件に影響を与えないものであれば、ここでの同一性は保たれているものと解されますが、最終的には、今後の通達・判例の集積に注目せざるを得ません。

この場合、労働基準法等の法規制上の免罰効や、育児・介護休業の勤続1年未満者の適用除外等の効果については、承継会社等の事業場における労働組合の組織状況等に従うこととなります。即ち、当該事業場での、各条文上の過半数代表者の要件を満たさなければ、当該事業場における各協定の免罰効は失われます。

なお、この免罰効とは、例えば、36協定の締結・届出により使用者がその有効期間中、協定に従い8時間・週休労働制等の基準を超える労働をさせても、それらの基準違反の刑事責任(労基法119条1項で、36協定なき時間外労働には 6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金の罰則があります)を問われない、という効果のことです。

(3)新たな承継会社等における過半数代表の選出の必要な場合

勿論、元々、分割会社に労働組合がなく、あるいはあっても各事業場において従業員の過半数を組織していない場合には、分割会社における上記各労使協定における従業員の過半数労働者代表を選出しなければなりません(従業員の過半数代表の選出方法については、拙著「改正労働法への対応と就業規則改訂の実務」<日本法令>150頁以下参照)。

2.労働組合法17条の一般的拘束力等
 労働組合法17条の一般的拘束力について、承継指針は、その要件として、「一の工場事業場に常時使用される同種の労働者の4分の3以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至ったとき」でなければならないこととされており、会社の分割前に分割会社の工場事業場において労働組合法17条が適用されていた場合であっても、当該分割の際に当該要件を満たさなくなった分割会社又は承継会社等の工場事業場においては、労働組合法17条は適用されないとしています。

労働組合法7条1号ただし書のいわゆるショップ制に係る労働協約についても「特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合」でなければならないこととされており、学説においては争いがありますが学説等の紹介につき、拙著『実務労働法講義』下巻689頁以下(民事法研究会、改訂増補版、2006)参照)、承継指針は、上記同法17条の一般的拘束力に対してと同様となる、としています。つまり、会社の分割前に分割会社の工場事業場において労働組合法7条1号ただし書が適用されていた場合であっても、当該分割の際に当該要件を満たさなくなった分割会社又は設立会社等の工場事業場においては、同ただし書は適用されず、ショップ制は許されないことになります。

対応策

以上によれば、「回答」の通り、労基法等による労使協定は、分割契約書等の記載によって承継されることはありませんが、分割後の承継会社等の当該事業場の同一性が保たれていれば承継され、保たれていない場合は、所定の手続に従い、新たに過半数代表を選出し労使協定を締結する必要があります。又、同様の問題は、労働組合法17条の一般的拘束力や同法7条1号ただし書のいわゆるショップ制に関しても起こりますので注意が必要です。

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