法律Q&A

分類:

派遣労働者の雇用制限の禁止

弁護士 村木 高志(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2011年06月:掲載

派遣社員の派遣先への転職を禁止できるか?

当社は、システム開発について優れた能力を有する労働者を他社に派遣しているのですが、その派遣先の会社から当該労働者がスカウトされて就職してしまうことを防ぐために、その派遣先・派遣労働者との間で、当社を退職した後に、その派遣先に就職することを禁止する旨の約束をしたいと考えています。このような約束をすることは可能でしょうか。

そのような雇用制限をすることは、原則として禁止されます。なお、「正当な理由」があれば、当該制限も許容されますが、実際に「正当な理由」があると認められるケースは、きわめて少ないものと考えられます。

1 派遣労働者の雇用制限の禁止について
(1)派遣労働者との関係
派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者又は派遣労働者として雇用しようとする労働者との間で、正当な理由がなく、その者に係る派遣先若しくは派遣先であった者又は派遣先となることとなる者に当該派遣元事業主との雇用関係の終了後雇用される旨の契約を締結してはならないとされています(派遣法第33条第1項)。これにより、たとえば、派遣元事業主が、派遣労働者との間で、「当社を退職後○か月間は派遣先に雇用されないこと」というような契約を締結することは、原則としてできないことになります(Q&AのⅣ第10章「派遣社員のスカウト」参照)。

(2)派遣先との関係
また、派遣元事業者は、その雇用する派遣労働者に係る派遣先若しくは派遣先であった者又は派遣先となろうとする者との間で、正当な理由がなく、その者が当該派遣労働者を当該派遣元事業主との雇用関係の終了後雇用することを禁ずる旨の契約をしてはならないとされています(派遣法第33条第2項)。これにより、たとえば、派遣元事業主が、派遣先との間で、「派遣先が労働者派遣を受けた派遣労働者について、当該労働者派遣の終了後、1年間は雇用してはならない」というような契約を締結することは、原則としてできないことになります。

(3)労働者の職業選択の自由確保
これらの規定は、労働者の職業選択の自由(憲法第22条)の確保を目的とするものです(なお、いずれの規定でも、禁止されるのは、雇用関係終了後の雇用制限です)。
 

2 雇用制限が可能な場合について
(1)「正当な理由」とは
なお、上記の各法文上は、「正当な理由」があれば、派遣労働者の雇用制限をすることが可能であるとされています。
この点について、労働者派遣事業関係業務取扱要領は、「労働者が雇用関係継続中に習得した知識、技術、経験が普遍的なものではなく、特殊なものであり、他の使用者の下にあっては、習得できないものである場合には、当該知識、技術、経験は使用者の客体的財産となり、これを保護するために、当該使用者の客体的財産について知り得る立場にある者(例えば、技術の中枢部に接する職員)に秘密保持義務を負わせ、かつ、当該秘密保持を実質的に担保するために雇用契約終了後の協業避止義務を負わせることが必要である場合については、正当な理由が存在するといえる」と考え、「具体的には、制限の時間、場所的範囲、制限の対象となる機種の範囲、代償の有無について、使用者の利益(企業秘密の保護)、労働者の不利益(職業選択の自由の制限)、社会的利害(独占集中のおそれ等)を総合的に勘案して正当な理由の存否を決定する」としています。

(2)実際に「正当な理由」が認められる場合
もっとも、上記要領は、「派遣労働者が、もともと他社に派遣され就業するという性格を有することからすると、このような正当な理由が存在すると認められる場合は非常に少ない」とも解しています。すなわち、派遣元でのきわめて高度な知識・経験等を持つ専門的な労働者であるような場合を除き、実際に「正当な理由」が認められるケースは、あまり見当たらないといえるでしょう。

対応策

基本的には、派遣先が派遣労働者をスカウトすることを制限することは禁じられていますので、そのような制限をしてしまわないように注意する必要があります。また、正当な理由があれば、上記のような制限をすることが認められることも考えられますが、上記のとおり、正当な理由が認められる場合は非常に少ないと考えられていますので、そのような制限をする場合には、上記設問で挙げた個別具体的な事情を十分に考慮する必要があります。

予防策

なお、設問のケースでも、雇用関係中に派遣先が派遣労働者をスカウトすることを制限することは可能です。したがって、雇用関係中に関して、(契約で)そのような制限をするということは考えられます。この場合、派遣先で、当該派遣労働者のスカウトや、働きかけなどが行われ、これによって派遣労働者が派遣元を退職したということが証明できれば、派遣先や派遣労働者に対する損害賠償請求等を検討することにもなり得ます。

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