法律Q&A

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所持品検査実施上の注意

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2000年10月:掲載
特定社会保険労務士 深津 伸子(坂本・深津社会保険労務士法人)
2008年5月:掲載

所持品検査をされた従業員がプライバシーの侵害だと主張して慰謝料を請求してきたら?

電子部品メーカーのA社では、高額製品の外部持出しを防ぐため就業規則で従業員の所持品検査制度を定めていました。その検査方法は、工場出入りの際の外観からの監視のほかに一斉検査として通勤者全員を対象として、日常携帯品以外を所持していると思われる者に対して質問し、外から所持品に触り、まれに所持品の中身を見せるよう求める程度で、身体検査のようなことはしていませんでした。新入社員Bは、このような検査に慣れていなかったのかソワソワして検査を拒否するような態度を示したので、出口で所持品を見せるよう求められ、説得された末B本人で開けたハンドバッグの中身を点検されました。これに対してBは慰謝料を請求してきました。A社としては、むしろ所持品検査を拒否しようとしたBに対し懲戒処分を考えていた位なのにどのように対応したら良いでしょうか。

就業規則に基づき、最高裁判例が示す身体検査に関する公平・画一的運用などの基準に沿ったものであれば、支払い義務はありません。

1.身体検査には判例は厳しい条件を設定
 A社のように従業員が現金や小物で高額な商品を持ち出す危険のある会社では従業員による金品の持出しを防ぐためなどから、所持品検査を行うことがあります。所持品検査が許されるための条件などが争われた西日本鉄道事件・最二小判昭和43・8・2民集22-8-1603で、最高裁は、使用者がその従業員に対して金品の不正隠匿の摘発・防止の為に行う所持品検査は、被検査者の基本的人権に関する問題であって、その性質上常に人権侵害のおそれを伴うから、たとえ、それが企業の経営・維持にとって必要かつ効果的な措置であり、他の同種の企業において多く行われるところであるとしても、また、それが労働基準法所定の手続を経て作成、変更された就業規則の条項に基づいて行われ、これについて従業員組合又は当該職場従業員の過半数の同意があるとしても、そのことの故をもって当然に適法視することはできず、右所持品検査が適法と認められるためには、【1】それを必要とする合理的理由に基づいて、【2】一般的に妥当な方法と程度で、【3】しかも制度として職場従業員に対し画一的に実施され、【4】就業規則その他明示の根拠に基づいて行われているものでなければならないとし、このようなものとしての所持品検査が行われる場合は、従業員は個別的な場合にその方法や程度が妥当性を欠く等、特段の事情がない限り、検査を受忍すべき義務があるとの原則を示しました。
2.条件を満たした所持品検査拒否には懲戒解雇も可
 その上で最高裁は、会社が乗務員による乗車賃の不正隠匿を摘発、防止するために、就業規則に基づき、一律に靴の中の検査を実施しようとしたという場合について、その方法や程度を欠いたとすべき事情も認められないとして、右検査を拒否した従業員に対する懲戒解雇を認めています。この西日本鉄道事件の内容は、現金を取り扱うことの多い交通機関の乗務員に関するものですが、そこでの一般的判断基準(右【1】ないし【4】)はその他の業務への所持品検査のためにいわばその前提として行われる物品持込み禁止措置の適法要件についてもそのまま当てはまります。その後現れた裁判例のほとんどが、この最高裁判決に従って、所持品検査や物品持込み禁止を必要とする事情と検査実施の具体的経緯、態様などを検討して、その適法性の有無を判断しています。
3.その他の裁判例は
 検査が正当なものであるとされたケースを挙げておきますと、例えば、a陶食器、衛生陶器などの製造販売会社で、設問のような方法でなされていた所持品検査について従業員が退出の際、守衛の要求にもかかわらず、携帯した風呂敷包みの検査を拒んだことを理由に懲戒解雇されたというケースにつき、裁判所はその検査が検査者に不当に羞恥心、屈辱感を与えて人権を侵害するおそれが少ないとして、右検査を違法と断定することはできないとし(東陶器機事件・福岡地小倉支判昭和46・2・12労経速761-3)、b私鉄の使用者が乗車料金の抜取り等を防止するために就業規則において所持品検査を定め、更に、検査の際発見された金銭が公金か私金かの区別がつくようにするため、同規則において勤務中の私金の携帯を禁止することは、ワンマンバスの乗務員についてはやむを得ず、適法であるとし(西日本鉄道事件福岡地小倉支昭和48・5・31判時726-101)、c電子部品メーカーのした所持品検査については、企業の機密漏洩を未然に防止する具体的必要性があったために、その必要性が生じたとき以降、退門しようとする従業員に対し、就業規則、服務規律等に基づき、画一的に実施されたもので、その方法も、鞄その他の所持品を守衛所前のカウンターに載せさせ、本人に開けさせた上で中を確認するなど、ことさら従業員に屈辱感を与えるものではない妥当な方法と程度において行われたものであるから、適法であり、従業員はこれを受任する義務があるとしています(帝国通信工業事件・横浜地川崎支判昭和50・3・3労判223-47)。なお、近時の例では、JR東海大阪第一車両所事件(大阪地判平成16・9・29労判884-38)があります。本件では、組合員が遺失したノートにつき、拾得物として提出を受けた使用者が、遺失物法に基づく警察署長への届出前に一定期間保管し、上記ノートの内容に、違法な業務阻害行為を組合が指示している可能性を示す記載が発見された以上、使用者がこれを証拠化し、事後の調査のために保管することは許されるとされましたが、上記ノートのうち、組合員個人のプライバシーに関する部分について写しを作成し、支社に届け出た上司の行為が違法であるとして、上司個人と使用者に慰謝料等35万円の支払いを命じています。
4.検査や懲戒処分に慎重な裁判例も
 しかし、注意が要るのは、先ず、右最高裁の【1】ないし【4】の要件の厳格な適用により検査が違法とされたケースも少なくないということです。又、検査自体は違法ではないとされた右a、bの事件でも、裁判所は、懲戒解雇を無効としていることです。

対応策

設問のケースでは、紹介したaとcの事件が参考となりますが、少なくともA社では右最高裁の【1】ないし【4】の基準に従った検査がなされていたもので、Bからの慰謝料請求に応じる必要はありません。しかし、Bに対する懲戒処分については、設問の場合、結局は所持品検査に応じているのですから、今回のところは、教育指導的な配慮からの事実上の訓戒(口頭注意)やけん責処分といった程度の対応にとどめておくべきです。しかし、今後もBがこのような反抗的態度を続け、実際にも所持品検査を拒否したような場合には、A社の負担するリスクとの関係から、更に重い処分も、又、最終的には懲戒解雇も止むを得ないでしょう(懲戒解雇の問題については設問10-5-2で詳しく触れることにします)。

予防策

理想的には在庫量のチェックやデパートで用いられているような搬出警報ブザーなどの対応で代替できれば良いのですが、宝石類や現金、高度な企業秘密を伴った製品を取扱う会社では、所持品検査の実施はやむを得ません。但し実施に当っては、右最高裁の【1】ないし【4】の基準に従って就業規則等の整備とそれに従った公平画一的な実施・運用が必要とされます。
そして、その運用に当ってもできる限りプライバシーの侵害などないように配慮し、説得による自発的な協力に基く実施を心がけるよう担当者への注意とそのためのマニュアルが必要です。又、その検査の対象者を必要性の高い一定の職場に限定することも従業員の納得性を高める上からも工夫されて良いでしょう。
また、最近では、所持品検査について、個人情報等の持出しの防止との観点もあり得るでしょう。個人情報保護法上、個人情報取扱事業者は、法第20条に基づく安全管理措置を順守させるよう、従業者に対し必要かつ適切な監督をしなければならないと定められています(法第21条)。この点につき、経済産業分野を対象とするガイドラインでは、従業者に対して必要かつ適切な監督を行っていない場合として「内部規程等に違反して個人データが入ったノート型パソコンを繰り返し持ち出されていたにもかかわらず、その行為を放置した結果、紛失し、個人データが漏えいした場合」をあげています。よって、個人情報データの漏えい等の防止の必要がある職場に対して適切に行う場合なども従業員の納得性を高める一つの理由となるでしょう。

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