- (1)傷病休職の意義
- 「傷病休職」とは、業務外の傷病による長期欠勤が一定期間(3ヶ月から6か月が通常)に及んだときに行われる休職のことである(菅野和夫「労働法」第5版補正第二版420頁参照)。この休職は、労働協約等に基づいて使用者の一方的な意思表示に基づいてなされることが多い。休職期間の長さは通常勤続年数や傷病の性質に応じて異なって定められる。この期間中に傷病から回復し就労可能となれば休職は終了し、復職となる。これに対し、回復せずに期間満了となれば、自然(自動)退職または解雇となる。したがって、この制度の目的は解雇猶予である。
- (2)傷病休職の問題点と復職
- 多くの場合、傷病休職は無給であり(但し、健康保険から傷病手当金等の給付はある)、勤続年数にも算入されないことから、休職の必要性・休職原因の存否が問題となる。
また、傷病休職は上記の通り、休職期間中に傷病が治癒すれば復職となり、治癒せずに休職期間が満了すれば自然退職または解雇となる。そこで、復職の要件たる「治癒」が備わったか否かに関して争いが生じる。「治癒」している場合には、当然の復職(休職終了)となる場合と、使用者の復職(休職を解く)意思表示を要する場合がありえよう。
そこで、問題となるのが治癒の概念である。
この点、休職期間満了時に傷病が治癒し復職可能な状態にあるか否かを判断するに際して、裁判例は[1]従前の職務を通常の程度に遂行できる健康状態に回復していることを要するとするものと、[2]使用者に復職希望の労働者にみあう業務に就かせるなど一定の配慮を行うことを求め、復職当初は軽易業務に就き、段階的に一定程度の猶予期間を置いて通常業務への復帰できる程度に回復しておればといとするものに分かれているが、従前の判例は「治癒」とは、原則として「従前の職務を通常の程度行なえる健康状態に復した時」(平仙レース事件・浦和地判昭40.12.16労民16-6-1113)をいい、したがって、ほほ平癒したが従前の職務を遂行する程度には回復していない場合には、復職は権利として認められない(アロマカラー事件・東京地決昭54.3.27労経速1010-25)と判断するものが多かった。なお、この点の軽減措置としての配転については「健康配慮義務」 (6)を参照 。
- (3)東海旅客鉄道(退職)事件
- しかしながら、傷病休職後の復職について、東海旅客鉄道(退職)事件(大阪地判平 11.10.4労判771.25)においては以下のような注目すべき判断がなされた。即ち、労働者が脳内出血で倒れ、会社の判断により傷病休職中であったが、3年の休職期間満了により、会社は労働者を退職扱いにすることを決定したところ、これを不服とし会社の行った退職処分は就業規則に違反し無効であるとして、従業員の地位確認及び未払賃金等の支払を請求した事案において、「労働者が私傷病により休職となった以後に復職の意思表示をした場合、使用者はその復職の可否を判断することにやるが、労働者が職種や業務内容を限定せずに雇用契約を締結している場合においては、休職前の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、使用者の規模や業種、その社員の配置や移動の実情、難易等を考慮して、配置換え等により現実に配置可能な業務の有無を検討し、これがある場合には、当該労働者に右配置可能な業務を指示すべきである。そして、当該労働者が復職後の職務を限定せずに復職の意思を示している場合には、使用者から指示される右配置可能な業務について労務の提供を申し出ているものというべきである」としたのである。
そして、会社の企業規模、事業内容等や当該労働者の身体状況を考慮して、少なくとも会社の工具室での業務は可能であり、会社は配置換えも可能であったと判断し、脳内出血で倒れ病気休職中であった労働者を、休職期間満了により退職扱いとしたことにつき、現実に復職可能な勤務場所があり、本人が復職の意思表示をしているにもかかわらず、復職不可とした判断には誤りがあり、退職扱いは就業規則に反し無効であるとした(なお、同旨の裁判例として、エール・フランス事件(東京地判昭59.1.27労判423.23)、東洋シート事件(広島地判平2.2.19判タ757.177)、北産機工事件(札幌地判平 11.9.21労判769.20)がある)
- (4)まとめ
- このように現在においては、上記②の見解が有力であると解されることから、従前の職務を通常の程度に遂行できる健康状態に回復していないからといって、復職を認めずに退職処分を行うと当該退職処分は無効と判断される可能性が高いと言わざるをえないであろう。