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退職勧奨が違法となる場合は?①

弁護士 中村 仁恒(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2020年8月掲載

協調性に問題がある従業員に対して退職してもらえないか話合いをしたいと思っています。
違法にならないようにするためには、どのような点に注意したらよいでしょうか?

辞職を勧める使用者の行為、あるいは合意退職のために使用者が説得することなどを退職勧奨といいます。
退職勧奨自体は原則として自由ですが、社会的相当性を逸脱した態様での半強制的ないし執拗な勧奨行為が行われた場合には、不法行為にあたり、損害賠償請求権が発生する場合があります。
また、話し合いの結果、自主退職あるいは合意退職となった場合でも、話し合いにおいて強迫的な文言が用いられたり、あるいは誤解を生じるような説得行為が行われていた場合には、自主退職や合意退職が無効となる可能性もあります。

1 退職勧奨の意義
 辞職を勧める使用者の行為、あるいは合意退職のために使用者が説得することなどを退職勧奨といいます。

2 退職勧奨の限界と関連裁判例
 退職勧奨行為自体は、裁判例において、原則的に自由とされています。
 しかしながら、社会的相当性を逸脱した態様での半強制的ないし執拗な勧奨行為が行われた場合等には、不法行為にあたり、損害賠償請求権が発生する場合があります。
 退職勧奨行為が社会的相当性を逸脱した態様で行われたか否かは、①使用者の文言②説得が行われた時間・場所・人数③説得が行われた頻度④説得に対する労働者側の対応⑤嫌がらせ等を目的とする不当な人事異動などが行われていないか等を考慮して判断されます。
 例えば、労働者の名誉感情を不当に害する屈辱的な文言を用いた場合などに違法とされることがあります。
 裁判例においては、執拗に退職勧奨し、「自分で行き先を探してこい」等と発言した事案において、社会通念上相当と認められる範囲を超えた違法な退職勧奨であるとして、退職勧奨を行った者及び使用者の不法行為責任が肯定されたものがあります。
 また、使用者が、退職に誘導するため、仕事の割りふりによる嫌がらせをし、孤立させようとした事案などでも不法行為と認められたものがあります。
 退職勧奨行為を行う場合には、退職勧奨の文言・頻度・仕事の割りふり・人事上の処遇等に留意し、社会的相当性を逸脱したものとならないように留意する必要があります。

3 不相当な退職勧奨が自主退職もしくは合意退職の法的効果に与える影響について
 退職勧奨を受けた労働者が、外形的に自主退職もしくは合意退職した場合でも、不相当な退職勧奨が行われていた場合には、それを原因として、自主退職もしくは合意退職の効果が否定されることがあります。
 裁判例においては、第三者の執拗な強迫によってなされた退職の意思表示は強迫にあたり取消可能としたものなどがあります。

4 退職勧奨を行った後に人事異動を行う場合の留意点
 人事異動等を退職勧奨の手段として行うことは、社会通念上の相当性を逸脱したものとされる可能性が高いです。
 それでは、使用者が、退職勧奨を断念し、退職勧奨の対象者となっていた労働者を人事異動等させる場合はどのように判断されるでしょうか。
 この点は、事案に応じて微妙な判断となりますが、基本的には、人事異動等の動機・合理的理由等を考慮して判断されることとなります。
 使用者が退職勧奨を断られた腹いせに行った人事異動であるとか、嫌がらせをすることにより労働者に退職勧奨を受けさせるために行った人事異動であるなどと認定されれば、不当な動機目的による人事異動ということになりますので、人事異動が違法・無効となる可能性が高いです。
 もっとも、退職勧奨を断られた後に行う人事異動が一概に不当なものであるとは限りません。
 退職勧奨を行った後では、不当な動機・目的が推認されやすい状況になりますが、それでも人事異動の必要性を裏付ける事実が客観的に存在すれば、人事異動の正当性が認められることもあり得ます。
 そのため、使用者としては、仮に法的に争いになった場合でも、そうした事実を立証できる準備をしておくことが重要となります。

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