無断欠勤して連絡がとれない従業員を退職にしてもよいでしょうか?
無断欠勤して連絡が取れない場合に自動で退職となる規定が就業規則にあるような場合を除いて、法的に退職とするには、会社から解雇通知を送るなどする必要があります。
また、連絡がとれない従業員に対して、解雇通知を郵送するなどの方法が考えられますが、解雇の意思表示が到達したと評価されるものか、慎重に検討する必要があります。
公示による意思表示を行うことを検討する必要が生じる場合もあります。事前の予防策としては、就業規則に関連条項を盛り込んでおくことが考えられます。
【 解説 】
退職には、1.辞職(労働者が雇用契約を終了させて退職する)2.解雇(会社が雇用契約を終了させる)3.合意退職(労働者と会社が合意して退職とする)という主に3つのパターンがあります。
3.合意退職であれば両当事者が合意する必要があり、1.辞職と2.解雇の場合では、いずれかが相手方に対して労働契約を終了させる旨の意思表示をする必要があります。
連絡が取れない従業員に対しては、解雇の意思表示を記載した書面を郵送するなどの手段を検討することも考えられます。
ところで、意思表示は原則として相手方に到達した場合に効力を発生するものとされているので(民法97条1項)、効力が発生したというためには相手方に対して到達することが必要になります。そして、到達したというためには、意思表示が相手方にとって了知可能な状態(相手方の支配圏内)に置かれていることが必要とされていますので(例えば、郵便受けに入れるなど)、相手方が意思表示を実際に受け取ることや、到達の事実を知ることまでは必要ないと解されています。
ただし、到達したと認められるかは、事案によって微妙な場合があります。例えば、郵便物が届いたときに、相手方がたまたま留守にしている場合には、郵便物が相手方の支配圏内に入ったことをもって到達ありとされる可能性があるものの、相手方が何らかの事情で失踪して長期間不在にしている場合などには、到達ありとされない可能性があります。
判例上も、賃借人に対する延滞賃料の支払督促に関する郵便について、本人が長期不在である等を理由に内縁の妻が受領拒絶した事案において、実際に本人が不在がちで外泊もしばしばあったとしても、その郵便は内縁の妻の受領拒絶の時に到達したと判断するものがあります。
他方では、債権譲渡通知の内容証明郵便が配達されたところ、本人が旅行中であるなどを理由に妻が再配達を求めた事案では、受領を拒絶した日ではなく、再配達の日に到達があった旨判断されています。
相手方の所在が不明な場合などには、公示による意思表示という方法もあります。その原則的方法は、裁判所の掲示場に掲示し、かつ、その掲示があったことを官報に少なくとも1回掲載する方法です。こうすることにより、相手方への意思表示の到達が認められますが、手続的な負担があります。
長期間連絡が取れない社員に対する方法としては、上記のものが考えられますが、到達が不確実になるリスクがあったり、手間が掛かったりする難点もあります。
対応策
そこで、就業規則にあらかじめそのような事態への対応策を講じておくことが考えられます。具体的には、長期間連絡がつかない場合には自動退職にするといった退職規定を整備するか、あるいは、住所地への郵便物の投函をもって意思表示があったものとみなすなど、意思表示の方法や到達に関する規定を就業規則に定めておくことが考えられます。
上記のような規定は、合理性が認められることが条件ではありますが、労働契約の内容となるため、そうした規定をあらかじめ盛り込んでおけば、行方不明で連絡がつかない従業員が出た場合の対応策とすることが出来ます。