当社では、従業員の自由で生産的な働き方を推進する目的で、完全週休2日制で、かつ清算期間を1ヶ月とするフレックスタイム制を導入することを検討しています。フレックスタイム制における時間外労働の考え方について教えてください。
フレックスタイム制においては、①清算期間における実労働時間の合計が「清算期間における法定労働時間の総枠」を超えた場合や、②清算期間が1ヶ月を超える場合に、1ヶ月ごとの労働時間が週平均50時間を超えた場合には時間外労働となり、36協定の締結や125%以上の割増賃金の支払いが必要となります。
ここで「清算期間における法定総労働時間の総枠」の考え方については、2019年4月の労基法改正による変更点がありますので、注意が必要です。
1 フレックスタイム制とは
フレックスタイム制とは、1か月など一定の期間(清算期間)についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決めることのできる制度をいいます。
労働者は、日々の出勤・退勤時間や働く時間を自由に決定することができるので、ワークライフバランスの観点からメリットが大きい制度と言えます。
2019年4月の労基法改正により、清算期間の上限が1ヶ月から3ヶ月に伸長され(労基法32条の3第1項第2号)、月を跨いだ労働時間の調整が可能となりました。
フレックスタイム制の詳細な内容については、関連記事「フレックスタイム制とはどういう制度なのか?」をご参照ください。
2 フレックスタイム制における時間外労働の考え方について
(1)清算期間における法定労働時間の総枠を超えた場合には時間外労働となること
フレックスタイム制においては、例えばある日の労働時間が9時間となり、又は週の労働時間が45時間となるなどして、一日の法定労働時間(8時間)や週の法定労働時間(40時間)を超えた場合でも、直ちに時間外労働となるわけではありません。
フレックスタイム制においては、清算期間における実労働時間の合計が「清算期間における法定労働時間の総枠」を超えた場合には、時間外労働が発生し、36協定の締結や125%の割増賃金の支払いが必要となります。
ここで、「清算期間における実労働時間」には、休日労働(1週間に1日の休日を与えなければならないという労基法上の「法定休日」における労働)の時間は含めないことに注意が必要です。フレックスタイム制の場合でも、休日労働をした場合には、その時点で35%以上の割増率で計算した賃金の支払が必要となります。ただし、会社で任意に設定している「法定外」休日に労働した場合には、法的には休日労働には当たらず、所定労働日における労働と同様「清算期間における実労働時間」に含めて計算する必要があります。
また、「清算期間における法定労働時間の総枠」は、原則として以下の計算式により算出されます。
清算期間を1ヶ月とした場合には、法定労働時間の総枠は以下のとおりとなります。
清算期間の暦日数 | 1ヶ月の法定労働時間の総枠 |
31日 | 177.1時間 |
30日 | 171.4時間 |
29日 | 165.7時間 |
28日 | 160.0時間 |
しかしながら、例えば1日の標準の労働時間を7時間45分とする完全週休2日制において、暦日数31日の月において残業のない働き方をした場合でも、曜日の巡りによっては1ヶ月の所定労働日数が23日となり、法定労働時間の総枠を超えるケースが考えられます。
清算期間における総労働時間=7時間45分×23日=178時間15分=178.25時間
法定労働時間の総枠=40時間÷7×31日=177.1時間
となり、清算期間における総労働時間が法定労働時間の総枠を超えてしまい、時間外労働が発生してしまうことになります。
このような問題を解決するため、2019年4月の労基法改正においては、週の所定労働日数が5日(完全週休2日制)の労働者を対象とする場合には、例外的に、労使協定により「清算期間内の所定労働日数×8時間」を法定労働時間の総枠とすることを可能としました(労基法32条の3第3項)。なお、これは週の所定労働日数が5日の労働者を対象とする制度ですので、例えば月を跨いで事前振替を実施する場合には、週の所定労働日数が6日となる週が出てきてしまいますので、この制度は使えません。
この場合には、上記のケースで、23日×8時間=184時間が法定労働時間の総枠となり、総労働時間が法定労働時間の総枠に収まることになります。
(2)1ヶ月ごとの週平均労働時間が50時間超の場合には時間外労働となること
1ヶ月を超える清算期間を定めた場合には、(1)の清算期間における実労働時間の合計が法定労働時間の総枠を超えた場合に加えて、1ヶ月ごとの労働時間が週平均50時間を超えた場合に時間外労働が発生します。
例えば、清算期間の始期を1月1日、終期を3月末日とする場合を想定します。1月の週平均労働時間が30時間、2月の週平均労働時間が30時間、3月の週平均労働時間が55時間の場合、1~3月の実労働時間の合計は法定労働時間の総枠(週平均40時間)を超えません。
しかし、3月については、週平均労働時間が55時間であり、週平均50時間を超えるため、その超えた部分については時間外労働となります。
すなわち、月ごとの労働時間に極端な偏りがある場合には、時間外労働が発生していますので、注意が必要です。
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