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定年後再雇用者を雇止めする際の留意点

弁護士 木原 康雄(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2023年3月

定年後再雇用者を雇止めする際はどのような点に留意する必要がありますか?

更新を期待することに合理的理由が認められるか否か、雇止めの客観的合理的理由及び社会的相当性が認められるか否かについて、個別事案ごとに慎重に判断する必要があります。

1 高年法による雇用・就業確保の要請

「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(以下、高年法といいます)により、65歳までの雇用確保措置を講ずることが義務づけられています。

そのため、60歳で定年の定めをしている場合、解雇・退職事由がない限り(解雇・退職事由がある場合は、平成24年11月9日、職発1109第2号「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律等の施行について」において、継続雇用しないことが認められています)、定年後は契約期間を1年などとして再雇用契約を締結・更新している企業が多いものと思われます(この再雇用契約は、高年法9条1項2号の措置に該当します)。

また、令和3年4月1日から施行されている改正高年法では、70歳までの就業確保措置を講ずるよう努めること(法的義務ではありません)とされており、その措置の一環として再雇用契約を締結・更新している企業もあるかと思います。

上記再雇用契約を、契約期間満了を理由に更新せずに終了(雇止め)できるかどうかについては、労働契約法19条の適否が関係してきます(なお、裁判例は、他の有期契約と同様に、再雇用契約の雇止めについても労働契約法19条により判断するとしています)。

すなわち、期間の定めのない雇用契約だと社会通念上同視できる場合(同条1号)、及び、更新されるものと期待することについて合理的な理由がある場合(同条2号)以外であれば、期間満了を理由に終了することができますが、これらの場合には、更新拒絶に客観的に合理的な理由があり、かつ、社会通念上相当であると認められなければ雇止めはできないものとされています(同一の条件で労働者からの更新の申込みを承諾したものとみなされます)。

この要件は、無期契約における解雇(労働契約法16条)の場合より緩やかに判断され得るものと解されていますが、それでも高いハードルです。

上記のうち1号の無期契約と同視できる場合というのは、定年後再雇用においては多くないと思われ、2号の適否が中心となるでしょう。以下、裁判例を概観していきます。

2 労働契約法19条の適否

(1)65歳までの再雇用契約について
ア 経過措置に基づく対象者を限定する基準がない場合
前述のとおり、高年法9条が65歳までの雇用確保を義務づけており、また、これに沿って再雇用規程等を整備している場合には、基本的に、再雇用者が65歳まで再雇用契約が更新されると期待することに合理的理由があると判断されています。

【雇止めが無効とされた裁判例】
◆テヅカ事件・福岡地判令2・3・19労判1230号87頁
60歳で定年退職後、2回更新した後に会社が更新拒絶したという事案です。

判決では、会社の継続雇用制度では、
①健康等の問題がなく、懲戒処分を受けたなどの事情もなければ、満65歳までの嘱託規程に基づき更新するとされていること、
②再雇用社員と更新をするか否かを改めて協議していたという実態はなく、健康状態等に問題がなければ、雇用期間が終わった後に契約書を作成するなどしていたこと、
等から、更新することができない何らかの事情がない限り、契約期間の満了時に、満65歳に至るまでは更新されると期待することについて合理的理由があると述べ、労働契約法19条2号の適用を認めました。

その上で、会社の業績不振による人員削減を理由する更新拒絶には客観的合理的理由及び社会的相当性が存在しないとして、雇止めはできないと判断されました。

【契約解除が無効とされた裁判例】
◆ヤマサン食品工業事件・富山地決令2・11・27労判1236号5頁
定年前に定年後の嘱託雇用契約を締結した後、非違行為があり譴責の懲戒処分を受けたことを理由に、始期付き嘱託雇用契約を解除し、定年後の再雇用を拒否したという事案です。

判決では、譴責の懲戒処分を受けたことは解雇・退職事由に該当するとはいえないとした上で、高年法及び会社の継続雇用制度に基づき合意が締結され、解雇事由・退職事由に該当する事情も認められなかったのであるから、再雇用されるものと期待することには合理的な理由があると認められる一方、会社が再雇用しないことは客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当とは認められないから、解除は無効であると判断されました。

イ 経過措置に基づく対象者を限定する基準がある場合
現在、令和7年3月31日までは従前の再雇用対象者を限定する基準を使用することができるとの経過措置が実施されていますが、この基準が適用される者については、基準を満たしていれば更新を期待することの合理的理由が認められることになります。

【雇止めが無効とされた裁判例】
◆エボニック・ジャパン事件・東京地判平30・6・12労判1205号65頁
①「過去3年間の人事考課結果が普通の水準以上」という基準は、高年法9条を踏まえれば、大半の従業員が達成し得る平凡な成績を広く含み、
②また、3年連続ではなく、過去3年間を通じて評価した場合に「普通の水準」以上であれば足りる趣旨と解すべき
とした上で、本件再雇用者は、人事考課基準を充足しており、再雇用契約が65歳まで継続すると期待することについて合理的な理由がある一方、基準の要素をすべて満たしている以上、更新拒絶の客観的合理的理由及び社会的相当性を欠くとして、雇止めは認められないと判断されました。

(2)65歳以降の再雇用契約について
65歳以上の場合には、前述のとおり就業確保の法的義務まではないため、更新を期待することに合理的理由があるかどうかは、個別の事情によることになります。

【雇止めが有効とされた裁判例】
◆損害保険料率算出機構事件・東京地判平30・7・18LLI/DB判例秘書登載
65歳となった年度末に定年退職後、1年間の有期雇用契約により再雇用された元職員について、有期雇用契約を更新せず雇止めしたという事案です。

判決では、使用者が、65歳定年者の6割程度の受け皿となるような制度にし、選抜が必要であると述べていたこと、雇用契約書等に、雇用延長を希望しても採用されない場合があることが明記されていること等から、雇用契約が更新されると期待することに合理的理由があるとはいえず、雇止めは有効であると判断されました。

【雇止めが無効とされた裁判例】
◆日の丸交通足立事件・東京地判令2・5・22労判1228号54頁
67歳で定年退職したタクシー運転手と、1年間の嘱託雇用契約を締結し、1回更新した後、道路交通法(報告義務を定める72条1項及び歩道等手前での一時停止義務を定める17条2項)違反があったことを理由に雇止めをしたという事案です。

判決では、
①会社のタクシー運転手のうち70歳以上は16%以上に上ること、
②本件社員は昭和57年からタクシー運転手として勤務していること、
③定年後も契約書を作成していないこと、
④1度更新していること
からすれば、69歳に達した本件社員においても、体調や運転技術に問題が生じない限り、嘱託雇用契約が更新され、定年前と同様の勤務を行うタクシー運転手としての雇用が継続すると期待することについて合理的な理由が認められる
とした上で、上記理由(道路交通法違反)で雇止めとすることは重過ぎるとし、雇止めの客観的合理的理由及び社会的相当性は認められないと判断されました。

3 以前より低い労働条件の提示と雇止め

なお、再雇用契約の更新に際し、会社がそれまでより低い労働条件を提示し、再雇用者がこれを拒絶したために雇止めしたという場合、提示した労働条件次第では雇止めの客観的合理的理由及び社会的相当性が認められないとされることがありますので、注意が必要です。

【雇止めが無効とされた裁判例】
◆Y社事件・広島高判令2・12・25労経速2462号3頁
60歳で定年後、1年間の再雇用をした後の雇止めが問題となった事案です。

判決では、更新の合理的期待があるとした上で、会社による再雇用条件の提案のうち、
①第1案及び第2案は、1時間あたりの給与は下がらないとしても、就労時間が減少する結果、給与総額(それまで約19万円)は3万円ないし4万5000円減少するものであり、
②継続雇用契約の時点で本件社員の定年退職時の6割程度とされた給与をさらに減額する案であり、
③第3案については、給与額に変動はないものの、就労場所が変わるなど、本件社員にとって通勤等の条件が悪くなっていると解され、
3案とも特に具体的な変更の理由が明らかでなく、したがって、本件社員がこれを拒絶することには相応の理由があり、会社にとっても本件社員による拒絶を十分想定し得るものであることも併せ考慮すると、これらの提案を本件社員が受け入れなかったことをもってなされた更新拒絶に客観的に合理的な理由があるとはいえない(従前と同じ労働条件で更新)と判断されています。

対応策

以上のように、定年後再雇用契約者を雇止めできるかどうかに関しては、更新を期待することに合理的理由が認められるか否か、雇止めの客観的合理的理由及び社会的相当性が認められるか否かについて、個別事案ごとの様々な事情の総合判断が求められます。

その上、雇止めのハードルは高いものですので、慎重な判断が要求されます。判断に迷われた際は、再雇用の問題についても経験豊富な当事務所にご相談ください。

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