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基本的なミスを繰り返す新入社員を試用期間満了時に解雇することはできるのでしょうか。

弁護士 難波 知子(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2023年5月

基本的なミスを繰り返す新入社員を試用期間満了時に解雇することはできるのでしょうか。

4月に入社した新入社員が、基本的なミスを繰り返します。具体的には、入力作業の単純ミス、社内書類の回付ルール違反、箱詰めの決まりを守らない、印刷ミス等の基本的なルール違反やミスです。このような状況ですので、当初予定の試用期間を延長することにしました。本人には、試用期間延長の面談時に、厳しく注意指導し、改善の見込みがなければ本採用できない旨伝えました。試用期間延長後も、全く勤務状況が改善せず、改善の見込みもないので解雇したいと思いますが可能でしょうか。

当該従業員が、勤務不良につき、十分な教育・指導を受けながらも、改善せず、その程度が重大で改善の見込みがない場合に限り、解雇することはできますが、容易にそれは認められません。

(1)試用期間満了後の本採用拒否(解雇)
試用期間中の契約関係は、解約権留保付きの労働契約が存在するとされています。そして、試用期間満了後の本採用拒否については、解約留保権の行使として、通常の解雇よりも広い範囲でその有効性が認められています(三菱樹脂事件・最判昭和48.12.12民集第27巻11号1536頁)。もっとも、容易に本採用拒否(解雇)が認められているわけではなく、解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるとされています。

したがって、試用期間満了後の本採用拒否(解雇)は、通常の従業員の解雇に比べて解雇のハードルが若干低いという程度であり、決して容易なものではありません。

(2)新卒社員の場合
特に、新卒社員の本採用拒否(解雇)は、容易に認められるものではありません。新卒社員については、能力不足や勤務態度不良などの問題について、企業側で丁寧に繰り返し指導を行った後も、全く改善の見込みが見られない場合に限り、本採用拒否は認められます。新卒社員は即戦力として期待されて採用されたわけではなく、入社時点では社会性や業務性が十分に備わっていないことを前提に、使用者が教育指導をして時間をかけて育てていくことが想定されているためです。新卒社員は、社会的に未熟で、入社直後は仕事ができないのは当然であり、問題があれば使用者が、丁寧に指導し成長させるべきであると考えられています。

したがって、新卒社員の本採用拒否(解雇)は、少なくとも、本人が問題点を認識し、改善に向けて本人なりに努力し、職務を誠実に遂行しようとしている場合には、有効とされる可能性は低いといえます。
以下で、試用期間の解雇に関する裁判例を見ていきます。

【試用期間における解雇が無効とされた例】
①日本品質保証機構事件・東京地判令和4.2.2労政時報4038号10頁
新卒社員が、審査報告書ファイルの入力作業における入力の誤りや入力漏れ、審査報告書回付時におけるルールに違反した上下逆さまによる付箋貼付、スキャン業務における基本事項に関するミス、箱詰め作業のファイル上下の間違い、印刷ミス、印刷部数間違い等の勤務不良状態であった事案
≪結論≫
試用期間延長後の解雇は無効
≪考慮された事情≫
・本人が改善の姿勢を見せている
・ほかに配転可能な部署がなかったとも認められない
・勤務不良につき改善の見込みがなく解雇しなければならないレベルに至っているとは認められない

他方、過去の裁判例からは、新卒社員の本採用拒否は、十分な教育・指導を受けながら、社会人としての自覚に欠ける行動が目立ち、重大なミスや規則違反を繰り返し改善の余地がない場合にはその有効性が認められる可能性はあります。

【試用期間における解雇が有効とされた例】
②大同信用組合事件・大阪地判平成28.11.18判例集未掲載
新卒者が、信用組合において、毎日のように書損を発生させ,その都度指導教育しても,同じ過誤を繰り返した事案
≪結論≫
能力不足を理由に新卒社員を本採用拒否したことは有効

③日本基礎技術事件・大阪高判平成24.2.10労判1045号5頁
地盤調査事業等の会社において、新卒社員が研修期間中に、再三にわたり注意指導を受けながら、睡眠不足による居眠りや周囲の者の生命、身体に危険を生じさせるような重大な規則の不遵守を繰り返した事案
≪結論≫
本採用拒否は有効
≪考慮された事情≫
・今後指導を継続しても、能力を飛躍的に向上させ、技術社員として必要な程度の能力を身につける見込みも立たなかった
・十分な指導・教育を行ってもなお改善可能性が少ない

このように、新卒社員の本採用拒否は、企業側で丁寧に繰り返し指導を行った後も改善の見込みがない場合に限り、適法とされています。

試用期間満了時の本採用拒否(解雇)であっても、解雇が有効と認められるハードルは低くはないという点は十分に留意しておく必要があります。

対応策

試用期間満了での本採用拒否(解雇)は、通常の解雇と同様、適切な指導、注意を行いそれでも改善の見込みがない場合に有効とされます。

使用者としては、そのための客観的証拠を残しておくことが非常に重要となります。

マニュアル等に基づく適切かつ丁寧な研修を行うとともに、日々の指導や注意を行い、指導する場面では指導書を交付します。また、日報を提出させて、それに対して上司が毎日指導のコメントを返すという方法もあります。さらに、定期的に面談を行い、改善すべき点がある場合は、本人に、改善すべき内容を自分で記載させて提出させ、問題点を認識させることも有用です。

そして、勤務不良につき改善がなければ本採用が難しいことを本人に予め明確に伝え、本人に改善を促すことが必要となるケースもあります。本人には、いつまでに何を改善すればよいのかを明確に伝え、本採用に向けた改善のチャンスを与え、それでも改善されない場合に本採用を拒否するという流れを踏むことで、本採用拒否が認められ易くなります。

本採用拒否が有効かどうか判断しかねる場合、また、訴訟リスクを減らしたい場合には、まずは、本人に本採用ができない理由などを十分に説明して退職勧奨し、合意退職という形で退職させるという方法も有用です。この際当面の生活費相当額等の解決金を支払うと合意退職が成立し易くなります。

使用者が解雇を望む場合には、本採用された後の方が更に解雇のハードルは上がりますので、試用期間満了での解雇に踏み切るか、本採用後に解雇の要件が備わるまで待ち、解雇に踏み切るかの方法の選択になります。

予防策

一旦雇い入れた以上、たとえ、試用期間中の者であっても、解雇するのは相当困難ですので、まずは採用時の能力や適性を十分に見極めるように努めます。

解雇を選択せざるを得ない状況であれば、試用期間満了時までに、研修や、指導、注意等を重ね「十分な教育・指導を受けながら社会人としての自覚に欠ける行為が目立ち、勤務不良について改善の見込みが全くない」という点につき、十分な客観的証拠を準備し、試用期間満了時での本採用拒否(解雇)を目指すことになります。

以上でご説明した通り、試用期間の解雇(本採用拒否)については、裁判所で無効とされることがあります。

無効とされてしまった場合、従業員を復職させなくてはならないケースや、これまでの賃金分として数百万円の支払いを命じられるケースもあります。

訴訟リスク回避やトラブル防止のためにも、試用期間に関して解雇を検討する場合には、必ず事前に労働問題に強い弁護士に相談してください。

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