法律Q&A

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定年後再雇用時の労働条件

弁護士 結城 優 2018年6月:掲載

定年後再雇用において定年前と全く異なる職種に従事させてよいか

当社で30年以上に亘って事務職を勤めてきた労働者を定年後再雇用することになりました。再雇用後は給与額も一定程度下げることを踏まえ、今後は1日4時間の清掃業務に従事させる予定ですが、何か問題はあるでしょうか。

当該労働者の希望や貴社の企業規模等にもよりますが、定年後再雇用後の労働条件が社会通念上労働者にとって到底受け入れ難いものであるとして、違法と判断されるリスクはあり、この場合、慰謝料の支払いが必要となることもあり得ます。

1.前提となる高年齢者雇用安定法
 高年齢者雇用安定法(以下「高年法」といいます。)は、使用者に、定年を定める場合には60歳以上とすることを義務付け(同法8条)、また、65歳からの年金支給開始に対応するため、65歳までの高年齢者雇用確保措置(①定年の引上げ、②継続雇用制度の導入、③定年制の廃止のいずれか)をとることを義務付けています(同法9条1項)。このうち、実務的には②継続雇用制度の導入が選択される例が多いでしょう。
2.定年後再雇用時の労働条件
 定年後再雇用時の労働条件について、高年法は特段の規定をしておらず、使用者が「合理的な裁量の範囲の条件」を提示していれば、継続雇用が成立しなくとも高年法違反とはならないと解されます(厚生労働省「高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者雇用確保措置関係)1-9等参照)。したがって、定年後再雇用時の職務内容を変更したり、労働時間を縮小することも、原則として使用者の裁量の範囲と考えられます。
もっとも、使用者の提示する労働条件が、労働者に到底受け入れられないような低いものであれば、実質的には高年法の趣旨に反するものと評価されることがあります(同旨の裁判例として、協和出版販売(賃金請求控訴)事件:東京高判平成19年10月30日労判963号54頁)。
 本件では、職務面(職務内容・労働時間)について、定年後再雇用時に労働条件を変更(縮小)することが高年法の趣旨に反しないか問題となりますが、同様の点について争われたリーディングケースとして、トヨタ自動車ほか事件・名古屋高判平成28・9・28労判1146号22頁が参考となります。

3.トヨタ自動車ほか事件・名古屋高判平成28・9・28労判1146号22頁
(1)事案の概要
 本件は、会社で定年までデスクワークを中心とする事務職に従事してきた労働者が、定年退職後、パートタイマーとしての再雇用の勤務条件(労働時間は原則として1日4時間で、勤務場所は従前どおりだが、主な業務内容は清掃業務、時給は1000円)が提示されたものの、「スキルドパートナー」としての再雇用を希望したため折り合わず、結局、再雇用を希望しなかったものとして定年退職になった事案で、労働者が会社に対し、当該再雇用拒否は違法であるとして、労働契約上の地位確認等を求めて訴えを提起したという事件です。
(2)判決内容と検討
 上記事案において、名古屋高裁は、「事業者においては、・・・定年後の継続雇用としてどのような労働条件を提示するかについては一定の裁量があるとしても、提示した労働条件が、無年金・無収入の期間発生を防ぐという趣旨に照らして到底容認できないような低額の給与水準であったり、社会通念に照らし当該労働者にとって到底受け入れ難いような職務内容を提示するなど実質的に継続雇用の機会を与えたとは認められない場合においては、当該事業者の対応は改正高年法の趣旨に明らかに反するものであると言わざるを得ない。」と述べ、本件についても、定年前は事務職に従事していた労働者に対し、定年後の継続雇用制度において定年前とは全く異なる清掃等の業務に従事することを使用者が提案したことは、社会通念上労働者にとって到底受け入れがたいものであり、実質的に改正高年法の趣旨に明らかに反する違法なものであるとして、使用者に1年分の賃金給付見込額に相当する慰謝料の支払いを命じました。
 同判決においては、会社側が日本有数の巨大企業であり、事務職としての業務には多種多様なものがあると考えられるにもかかわらず、清掃業務以外に提示できる事務職としての業務があるか否かを十分に検討されていない点が指摘されており、企業規模も考慮要素の一つとされているようです。
4.補論
 以上では、定年後再雇用時の労働条件のうち職務面に焦点をあててきましたが、実務上は賃金面について争われるケースが非常に多く、特に、定年前後で職務内容が同一のケースにおいて、労契法20条やいわゆる「同一労働同一賃金」の観点から大きな問題となっています(長澤運輸事件・最二小判平成30年6月1日、東京高判平成28年11月2日労判1144号16頁、東京地判平成28年5月13日労判1135号11頁)。
 企業としては、最高裁判決の内容や法改正の動向も踏まえつつ、今後の運用を決めていく必要があるでしょう。

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