法律Q&A

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懲戒解雇はどのような場合に認められるか

弁護士 難波 知子 2017年9月:掲載

懲戒解雇はどのような場合に認められるか。

懲戒解雇は、労働者が制裁として企業外に排除しばければならないほどの企業秩序、企業規律に違反する行為をした場合や会社に実害を発生させた場合にのみ認められ、労契法15条に従い、その有効性が判断される。

1.懲戒解雇
 懲戒解雇は、懲罰的処分として行われる解雇で最も重い懲戒処分であり、その有効性は労契法15条に従って判断されます。
2.懲戒解雇の有効要件
 懲戒解雇を行うには次の点を満たしていることが必要です。

①懲戒解雇処分の根拠規定があること
 懲戒解雇の定めと懲戒解雇の事由が就業規則等に明記されていることが必要です。
②労働者が在職中に懲戒解雇に該当する行為をしたこと
 労働者の非違行為が懲戒解雇対象事由に該当することが必要です。
③懲戒解雇が相当であること

 懲戒処分は、規律違反の種類・程度その他事情に照らして社会通念上相当なものでなければなりません。懲戒解雇は、労働者にとって非常に不利益なものですから、制裁として労働者を企業外に排除しなければならないほどの重大な義務違反や会社に実害がある場合に限り行うことができます。
 多くの懲戒解雇が、懲戒解雇事由に該当しない、もしくは、当該行為の性質、態様、懲戒対象者の仕事内容、勤務歴、立場等諸般の事情が考慮され重過ぎるとして、無効とされています。

3.裁判例
[1]規律違反
(1)業務上横領等
 領収証の金額を水増しして10万円を着服した事案について、重大な背信行為であるとして懲戒解雇を有効としたもの(ダイエー[朝日セキュリティーシステムズ]事件 大阪地裁 平10.1.28判決)や、部下の横領行為について、経理関係のチェックを怠り看過していた営業部長に対する懲戒解雇を有効としたものがあります(関西フエルトファブリック〔本訴〕事件 大阪地裁 平10.3.23判決)。金銭の不正取得は、懲戒解雇が認められる傾向にあります(東武トラベル事件 東京地裁 平15.12.22判決、ジェイティービー事件 札幌地裁 平17.2.9判決)。
 他方、通勤経路変更を届け出ずに通勤手当を約5年間不正受給していた事案では、動機としては悪質とはいえず、懲戒解雇は無効としたものがあります(光輪モータース事件 東京地裁 平18.2.7判決)。

(2)セクハラ行為等
 観光バス運転手のバスガイドに対するわいせつ行為につき、事案の悪質性、会社の名誉・信用毀損(きそん)の観点から懲戒解雇処分を有効としたものがあります(西日本鉄道事件 福岡地裁 平9.2.5判決)。
 他方、宴会の席でのセクハラ行為について、会社から指導注意されたことはなく、いきなり懲戒解雇することは重過ぎるとして無効としたものがあります(Y社事件 東京地裁 平21.4.24判決)。

[2]職務懈怠・勤怠不良
 企業秩序を乱し、企業から排除すべき程度に至っている場合にのみ、懲戒解雇が認められます。
裁判例では、半年で24回の無断遅刻と14回の無断欠勤を繰り返し、会社が注意指導を行い、譴責処分を行った後も無断欠勤、遅刻を繰り返した労働者に対する懲戒解雇を相当としたもの(東京プレス工業事件 横浜地裁 昭57.2.25判決)があります。
 他方、出張を拒否し、欠勤した従業員を懲戒解雇した事案については、出張の業務命令違反は認められるが懲戒解雇は無効としたものがあります(熊坂ノ庄スッポン堂商事事件 東京地裁 平20.2.29判決)。

[3]業務命令違背
 上司による業務指示に従わなかったことから懲戒解雇した事案について、会社の企業秩序侵害は重大とまでいえず懲戒解雇事由に該当しないと判断したもの(日本通信事件 東京地裁 平24.11.30判決)、配転命令に従わないことを理由とする懲戒解雇は無効としたもの(メレスグリオ事件 東京高裁 平12.11.29判決)等、懲戒解雇の有効性を否定したものは多数あります。

[4]経歴詐称
 経歴詐称とは、労働者が、入社の際、学歴、職歴、資格、犯罪歴などの事実を偽り、真実を告知しないことをいいます。重大な経歴詐称があった場合は、懲戒解雇もやむを得ないとされています。
 中学校または高校卒者の募集に対して大学中退等の事情を秘匿して採用された事案につき、懲戒解雇を有効としたものがあります(炭研精工事件 最高裁一小 平3.9.19判決)。
 他方、学歴の詐称により企業秩序が乱されたとまではいえない(西日本アルミニウム工業事件 福岡高裁 昭55.1.17判決)、視力障害があることをもって直ちに重機運転手として不適格であるとまではいえない(サン石油〔視力障害者解雇〕事件 札幌高裁 平18.5.11判決)として懲戒解雇を無効としたものがあります。

[5]私生活上の非行
 使用者は、労働者の私生活には原則として関与できないため、懲戒の対象となるのは、事業活動に直接関連したり、会社の社会的評価を下げたりする行為のみです。
 もっとも、懲戒事由とされるのは、「当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から綜合的に判断して、右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない」(日本鋼管事件 最高裁二小 昭49.3.15判決)とされています。
 例えば痴漢行為を理由とする懲戒解雇(小田急電鉄会社〔退職金請求〕事件 東京高裁 平15.12.11判決)についても、前歴や過去に処分歴がある場合等に有効としたものがありますが、痴漢行為をした教員に対する懲戒免職が重過ぎるとして無効と判断したものもあります(横浜市教育委員会事件 東京高裁 平25.4.11判決)。
 その他、休日に酒気帯び運転をした事案(加西市〔職員・懲戒免職〕事件 神戸地裁 平20.10.8判決)や、妻子ある同僚と不倫関係になった事案(繁機工設備事件 旭川地裁 平元.12.27判決)につき、いずれも懲戒解雇(懲戒免職)は重過ぎるとして無効としています。

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