法律Q&A

分類:

出張中の電車の中で、暴行に遭った場合、労災と認められるか

弁護士 筒井 剛(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2002.02.15

問題

先日、私の同僚が出張中の電車の中で、見知らぬ男にいきなり殴りかかられ、怪我をしてしまいました。この場合に、労災と認められるでしょうか。また、私の同僚に原因があって殴られたような場合はどうでしょうか 。

回答

 原則として労災とは認められない。
解説
1.労災といえるためには
 労災と認められるためには、労働者に生じた負傷・疾病・傷害・死亡等が「業務上」生じたと認められる必要があり、「業務上」といえるためには、「業務起因性」を有していなければならず、その第1次的要件として「業務遂行性」を有していなければなりません。ここで「業務遂行性」とは当該労働者が労働契約を基礎として形成される使用者の支配下にあることをいい、「業務起因性」とは業務と傷病等との間に経験法則に照らして認められるところ相当因果関係が存在することをいいます。業務遂行性が認められた場合には、業務起因性がないという反証がなされない限り、労災と認められます。
2.出張中の「業務遂行性」
  自宅から直接主張先に向かう途中で被災した場合には、一般的には「業務遂行性」が認められる傾向にあるようです。それは、自宅を出てからは既に会社の支配下にあると評価出来るからです。出張先から直接自宅に帰る途中の被災も同様です。
3.出張中の被災の「業務起因性」
 もっとも、その災害が自然現象、本人の私的業務逸脱行為、規律違反行為および外部の力によるなどの場合には、業務起因性は認められません。これらの場合を業務起因性の反証がなされた場合といいます。したがって、出張中に第三者から暴行を受けた場合には、原則として労災とは認められません。
4.のぞみ殺人事件をめぐる労災認定
 この点につき、最近興味深い判断がなされました。即ち、出張からの帰途に新幹線の車内で、会社員が覚せい剤使用の無関係の男から刺殺された事件(いわゆるのぞみ殺人事件)で、大宮労基署は、遺族から出された労災保険の遺族補償給付請求に対して、「業務起因性」の確認ができないとの理由で不支給決定を行ったのですが、それを不服とする遺族らの不服審査請求に対し、平成10年8月31日埼玉労災補償保険審査官は、業務起因性を肯定し一転して労災を認めたのです。その理由としては、[1]日程の都合で車内で行なっていた出張結果の検討会の声を「うるさい」とする男から殺害された[2]検討会をしていたため、退避の可能性のない状況で災害が起こった等を挙げています。したがって、出張中の暴行についても上記[1][2]のような特殊な事情があれば、例外的に労災と認定されるでしょう。
5.労働者に原因がある場合の労災認定
 では、労働者本人に全面的もしくは部分的な原因があった場合には労災と認められるのでしょうか。この点、労働者本人の行為が全面的な原因となって被災したといえる場合には、原則として労災とは認められないでしょう。そのような場合には恣意的行為あるいは私的行為といえ業務起因性が否定されるからです。判例においても、甲が元同僚の乙に殴られて死亡した事例おいて、甲が乙に対し嘲笑的態度をとり、乙の暴力を誘発したなどの事情があるときは、甲の死亡はその業務に起因したものとはいえず労基法79条の「業務上死亡した場合」にあたらないとしています(最判昭49・9・2判タ313号255頁)。もっとも部分的な原因があるに過ぎず、業務起因性の反証がなされない場合には、労災と認定される事例も考えられるでしょう。

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