法律Q&A

分類:

自宅から単身寮への移動途中での事故は通勤災害になるか

弁護士 村林 俊行(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2002.08.26

問題

私は、A社に勤務して建設作業の仕事をするために勤務先付近のA社の単身赴任用の寮に住んでいますが、月に3回は自宅に帰省しています。ところで、私は、週末休みを利用して自宅に帰省したおり、仕事の前日に自宅から単身寮に自動二輪車で戻る途中に後続車より追突され右腕を骨折してしまいました。このような場合には、私は療養補償給付等の受給はできるのでしょうか。

回答

 単身赴任者が、自宅から単身寮への移動途中での事故により負傷した場合には、通勤災害として療養補償給付等の労災保険給付を受けることができない場合が多いです。しかし、本件において、従業員の自宅から単身寮への移動につき、業務との密接な関連性を認めることができ、自宅を「住居」として取り扱うこと及び単身寮を「仕事場」と取り扱うことが可能である場合には、療養補償給付等の労災保険給付を受け得ることになります。
解説
1.通勤災害に基づく労災認定の要件
 通勤災害につき労災認定がなされるためには、災害が「通勤により」生じたものでなければならず、具体的には負傷等が通勤に伴う危険の具体化とみなされることが必要となります(労災保7条1項2号)。ここに「通勤」とは、労働者が、就業に関し、住居と就業の場所との間を、合理的な経路及び方法により往復することをいい、業務の性質を有するものは除かれます(労災保7条2項)。本件における問題点は、主に、[1]自宅が「住居」といえるか、[2]単身寮が「就業の場所」又はそれと同視できるか、[3]週末帰宅型通勤における単身寮への移動が「就業に関し」て行われたものといえるかにあります。
2.自宅が「住居」といえるか
 単身赴任者等が休日を利用して就業場所から家族が住む自宅に帰り、週初め等に自宅から就業の場所へ出勤するという土帰月来あるいは金帰土来といわれる週末帰宅行為の途上における災害に関しては、労働者災害補償保険法に関連した通達が出ています(平成7.2.1基発39号)。それによれば、週末帰宅を行う場合、「就業の場所」と自宅との往復行為に反復・継続性が認められる場合には、自宅を「住居」として取り扱うことになっています。なお、この場合に通勤災害と認められるためには、自宅と赴任先との間の距離や所要時間は関係ありませんが、通常の通勤災害と同様に、その週末帰宅通勤が合理的な経路・方法であって、かつ、その間に逸脱・中断がないことが条件になります。

 この点本件については、月に3回は赴任先から自宅に帰っているので往復行為の反復・継続性については問題ないので、自宅を「住居」と認めることはできるでしょう。

3 単身寮が「就業の場所」又はそれと同視できるか
 単身寮については、そこでA社の業務が行われていたという例外的な場合を除き8「就業の場所」とみることは困難です。しかし、単身寮がA社の業務の必要に基づいて設けられたもので、工事現場と一体となって業務を遂行するための附帯施設であるというべきときは、「就業の場所」と同視できる場合もあるものと解されます。
4 週末帰宅型通勤における単身寮への移動が「就業に関し」て行われたものといえるか
 従業員の自宅から単身寮への移動は、一般的には単身寮が業務を行う場所ではないことを考慮すれば「就業に関し」て行われたものと解釈することは困難です。しかし、従業員の自宅から単身寮への移動につき、業務との密接な関連性を認めることができる場合には、「就業に関し」て行われたものと解釈する余地はあるものと解されます。例えば、週末帰宅型通勤をするに際して鳶職という危険な作業に従事することに備えて十分に体調を整えるために就労日の前日に単身寮に戻ろうとしていた場合には、その移動は「就業に関し」て行われたものと解釈され得るものといえます。

 この点、判例の中においても、従業員が自宅から単身赴任先の寮へ向かう途中の被災につき、[1][2][3]の問題点について概ね以上に述べたように判断をしたものがあります(能代労基署長(日動建設)事件・秋田地判平12・11・10 労判800号49頁)。

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