法律Q&A

分類:

傭車運転者の労働者性

弁護士 村林 俊行(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2003.05

問題

甲は、自己所有のトラックを持ち込んで、A社の指示に従って製品の運送をしていましたが(傭車運転手)、製品の積み込み作業中に製品が倒壊したために右足を骨折するに至りました。このような場合には、甲は療養補償給付等の受給はできるのでしょうか。なお、A社は、甲に対する報酬の支払いに当たって所得税の源泉徴収や社会保険及び雇用保険の保険料を控除していないし、甲に就業規則を適用していない。また、甲は、時間的・場所的な拘束の程度も一般の従業員と比較して遥かに緩やかであった。

回答

 療養補償給付等の労災保険給付を受けるためには、被災者が労災保険法上の「労働者」といえなければならない。この点、本件における甲は、傭車運転手としての職務遂行中にけがをしているが、時間的・場所的な拘束の程度も一般の従業員と比較して遥かに緩やかでありA社との間に指揮監督関係を見出すことが困難であること、報酬の支払いに当たって所得税の源泉徴収や社会保険及び雇用保険の保険料を控除していないこと等の諸般の事情を総合考慮するならば、労災保険法上の「労働者」とはいえない可能性が強い。従って、甲は療養補償給付等の労災保険給付を受けることができない可能性が強い。
解説
1.労災認定の要件
 労災認定がなされるためには、被災した者が労災保険法上の「労働者」といえなければなりません。そして、労災保険法が労基法の「災害補償」に定める各規定の使用者の労災補償義務を補填する制度として制定されたことに鑑みて、労災保険法上の「労働者」は労基法上の「労働者」と同一のものと解釈されています。そして、被災した者が労災保険法上の「労働者」といえるためには、雇用、請負等の法形式にかかわらず、その実態が使用従属関係の下における労務の提供と評価するにふさわしいものであるかどうかによって判断されることになります。具体的には、[1]仕事の依頼・業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、[2]業務遂行上の指揮監督の有無、[3]勤務場所・勤務時間の拘束性の有無の3点を中心として、それに労務提供の代替性の有無、源泉徴収の有無、社会保険料の負担の有無、服務規律適用の有無等を総合して判断すべきものとされています。
2.傭車運転手と労働者性について
 傭車運転手においては、会社に専属して製品の運送業務に携わっていることがままあること、会社の運送係の指示を拒否することが困難であること等から、その実態が使用従属関係の下における労務の提供と評価できるかどうかにつき問題となります。

 しかし、傭車運転手は、トラックという事業用資産を所有し、自己の危険と計算の下で運送業務に従事していることから、一定の事業者性を有することは否定できません。具体的には、[1]会社の指示が運送という業務の性質上当然に必要とされる運送物品、運送先及び納入時刻の指示にとどまっているか、[2]時間的・場所的な拘束の程度も一般の従業員と比較して遥かに緩やかであり会社との間に指揮監督関係を見出すことが困難であるといえるか、[3]報酬の支払いに当たって所得税の源泉徴収や社会保険及び雇用保険の保険料を控除していないか等の諸般の事情を総合考慮すれば、労災保険法上の「労働者」とはいえない場合が多いものといえましょう。

 この点、判例は、傭車運転手の労働者性につき、以上に述べた諸般の事情を総合的に考慮して「労働者」にあたるか否かを判断した上で、労働者にあたらないと判断しているものが多いようです(横浜南労基署長(旭紙業)事件・最判平8・11・28 判時1589号136頁以下、堺労基署長(コスモ商会)事件・大阪地平14・3・1 労判828号88頁以下)。

3.本設問の場合について
 本設問においては、甲は、傭車運転手としてA社において製品の運送業務に従事しており、[1]時間的・場所的な拘束の程度も一般の従業員と比較して遥かに緩やかであること、[2]報酬の支払いに当たって所得税の源泉徴収や社会保険及び雇用保険の保険料を控除していないこと、[3]甲に就業規則を適用していないこと等を総合考慮するならば、A社の業務遂行上の指揮監督が強い等の格別の事情がない限り、その実態が使用従属関係の下における労務の提供と評価するにふさわしいものということは困難といえます。従って、甲は療養補償給付等の労災保険給付を受けることができない可能性が強いものといえます。

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