法律Q&A

分類:

帰宅途中の事故と飲酒行為

弁護士 中村 博(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2003.09

問題

甲は、会社からいつもの通勤経路で帰宅途中、土手から転げ落ちて負傷してしまいましたが、その転げ落ちた原因は、甲が帰宅途中に酒屋の自動販売機でアルコール飲料を購入しそれを飲みながら帰宅したことであることが後日判明しました。甲は、別に寄り道をしたわけでもなく通常の通勤経路で生じた通勤途上の事故であることには問題ないと考え、療養給付と休業給付を求めて所轄の労働基準監督署長に対して労災保険請求を行ないましたが、通勤災害とはいえないとの理由でこの請求が棄却されてしまいました。甲としては、当該請求をあきらめなければならないのでしょうか?

回答

 この場合は、通勤の経路上において、通勤とはなんら関係のない飲酒行為を行ったもので、これにより往復を中断し、その後に本件災害に遭ったものというべきですが、その中断について労災保険法7条3項但書の該当事由があることを認める事情が特に認められない限り、同条3項本文により同条1項2号の「通勤」とされないということにならざるを得ませんので、甲は、労災保険金請求をあきらめざるを得ないと思われます。
解説
1.労災保険法上の「通勤災害」とは?
 労災保険法上、通勤災害とは、「労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡」のことをいい(労保法7条1項2号)、ここにいう「通勤」とは、「労働者が、就業に関し、住居と就業の場所との間を、合理的な経路及び方法により往復すること」をいい、業務の性質を有するものを除く」ものとされています(同条2項)。労働者が、往復の経路を逸脱し又は中断した場合には、当該逸脱又は中断の間及びその後の往復は「通勤」とはされず(同条3項本文)、当該逸脱又は中断が、日用品の購入、職業能力開発のための受講、選挙権の行使、病院での診療等日常生活上必要な行為であり厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合には、「通勤」とされます(同条3項但書)。
2.通勤による負傷と言えるか
 本件においては、確かに甲は客観的には通勤経路を逸脱してはいませんが、甲が帰宅途中に酒屋の自動販売機でアルコール飲料を飲むという行為が加わったことにより、本件の甲の負傷が「通勤による負傷」と言えるかどうかが問題となるのです。一般に「通勤による」とは、経験則上通勤と因果関係にあること、すなわち通勤に通常伴う危険の具体化とみなされることとされておりまして、通勤途上の交通事故とか落下物による負傷などがこの具体化の典型例とされておりまして、判例では、「通勤途中に第三者に殺害された場合でも、通勤が偶々犯行の機会として選ばれたに過ぎず、通院に通常伴う危険の具体化とはいえない」とされております(大阪南労基署長事件・大阪高判平成12.6.2労判798-7)。
3.最新判例
 本件と同様な事案で、労働者が翌朝第三者によって倒れているのが発見されその後搬送された病院でも未だにアルコール臭があったとされた事例において判例は、①労働者が転落の原因について「酔っ払って落ちた」ことを認めていた時期があったこと②労働者が搬送された病院で、本件事故から約12時間も経過していたにもかかわらずアルコール臭がしていたことを根拠として、労働者が本件事故直前の帰宅途中の一定時間にわたり労働者自身が自認する以上の相当な量のアルコール飲料を飲んだことを推認し、これを否定する労働者自身の供述を信用性がないとして排斥して通勤の往復の中断があったことを認定し、労働者の不支給処分取消請求を棄却しました(立川労基署長(通勤災害)事件・東京地判平成14.8.21・労判840- 94)。
4.結論
 そこで、結論は回答の通りになります。通勤途中の飲酒行為については、出社途中は当然ながら帰宅途中であっても、その行為を労保法7条3行為但書でこれを「通勤の中断」がなかったと取り扱うことには法律的には困難が伴うものと思われ、特に帰宅途中の「飲みすぎ」には注意が必要です。

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