問題
過労等により、うつ病などの精神障害になった労働者に、対人関係維持や協調性上の問題、労働意欲の減退などの後遺障害が残った場合に、これらの障害は労災保険の対象になるのですか。なるとしたら、どんな等級になるのでしょうか。
回答
- 平成15年10月1日以降、抑うつ状態、労働意欲の減退等の精神症状が認められるものについて、日常生活や通勤・勤務時間の遵守、対人関係・協調性等の8つの能力の障害の程度に応じ、原則として、9級・12級・14級の3段階で障害等級が認定されることになりました。
解説
- 1.業務による心理的負荷を原因とする精神障害の後遺障害への従前の取扱
- いわゆる過労自殺の労災認定基準を緩和した、平成11年9月「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」が示されて以降、業務による心理的負荷(過重労働)が原因となって発症したとされる精神障害について業務災害として認められる事案が増加しています。これに伴い、今後、業務による心理的負荷を原因とする精神障害の後遺障害に係る請求も増加することが予想されています。にも拘わらず、従来の障害等級認定基準は、頭部外傷等による脳の器質的な変化に伴う精神障害(器質性精神障害)の後遺障害についてはその障害の程度に応じて認定基準が掲げられていましたが、過労による精神障害のような脳の器質的な変化を伴わない精神障害(非器質性精神障害)の後遺障害に係るものとしては「外傷性神経症(災害神経症)」の場合のみが掲げられ(その障害の評価については、「精神医学的治療をもってしても治ゆしないものについては、第14級の9に認定する」と定められています)、その他の判断指針の対象となる非器質性精神障害の後遺障害に係る認定基準は明示されていませんでした。
- 2.精神障害等の障害等級認定の新基準
- そこで、以下のように、平成15年8月8日付「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準」(新基準)が示されました。
(1) 非器質性精神障害の特質と障害認定
非器質性精神障害は、その特質上、業務による心理的負荷を取り除き適切な治療を行えば、多くの場合完治するのが一般的とされ、完治しない場合でも症状がかなり軽快するのが一般的であるとされています。また、通勤・勤務時間の遵守、対人関係・協調性等の能力のうち、複数の能力が失われている等重い症状を有している者については、非器質性精神障害の特質上、症状の改善が見込まれることから、症状に大きな改善が認められない状態に一時的に達した場合においても、原則として療養を継続することとされています。
(2) 障害認定の基準
それでも「抑うつ状態」等の精神症状が認められるものについて、日常生活や通勤・勤務時間の遵守、対人関係・協調性等の8つの能力の障害の程度に応じ、原則として9級(対人業務につけないもの等)・12級(職種制限は認められないが、就労に当たりかなりの配慮が必要であるもの等)・14級(職種制限は認められないが、就労当たり多少の配慮が必要であるもの等)の3段階で障害等級を認定することされました。
ビジネスガイド平成15年12月号掲載