法律Q&A

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入社前研修中の事故

弁護士 筒井 剛(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2004.01

問題

当社では、社員が入社する前に、内定者に入社前教育に参加させています。ところが、先日、ある内定者が、入社前研修への通勤中に交通事故にあってしまいました。この場合に、この内定者に災害補償は適用されるのでしょうか。さらには、企業内補償も必要なのでしょうか。

回答

 労働者といえれば、労災保険の適用はある。企業内補償は原則不要であるが、保険に加入しておくことが望ましい。
解説
1.労働者といえるかがポイント
 この場合、当該内定者が労基法9条に規定する「労働者」に該当していれば、労災保険が適用されますが、「労働者」に該当するか否かは、(1)「使用従属性」に関する基準と(2)労働者性の判断を補強する基準とから判断されます(労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」(昭 60.12.19))。

 もっとも、厚生労働省は入社前研修中の事故についての態度は厳格のようです。入社前研修中の手当を賃金といえるかについて「厳密に判断する必要がある」とされ、自由参加のマナー研修等の一般研修の場合は、その手当は恩恵的なものであり、賃金ではないとも解釈できるとされています。

 結局、例外的に入社研修前に労災保険の適用を認め得るのは、「研修という名目のもとに、入社前からアルバイトの形で実際に業務を手掛けている場合」、例えば、製造業などで実際に工場に出て作業している最中に発生した事故の場合とされています。

 このような厚生労働省の態度に鑑みれば、労災適用が認められる「労働者」といえるためには、結局、[1]内定者に支払われる賃金が一般の労働者並みの賃金であり、少なくとも最賃法の規定を上回っていること、[2]実際の研修内容が、本来業務の遂行を含む研修期間中であり、[3]それらが使用者の指揮命令の下に契約上の義務として支払われているものであること、の三つの事実が必要であると思われます。もっとも、これでは本採用された労働者に対する判断との比較では厳格に過ぎて整合性を欠くものと思わざるを得ませんが、実務的対応としては厚生労働省の態度に留意すべきです。

 本件では、詳細は不明ですが、上記の判断基準から労働者と認定できれば、労災保険が適用されるといえます。

2.就業規則上の企業内補償を適用すべきか
 次に、就業規則上の企業内補償を適用すべきかについてですが、通勤途上災害について使用者の賠償責任が問題となるのは、本採用後の場合でも、その交通機関が使用者の提供したバスなどの場合に限られ、そのような事情にない限り、会社の責任はありません。したがって、原則として、就業規則上の企業内補償の適用は不要といえます。

 もっとも、この場合も会社は福利厚生的観点からの見舞金などの対応は求められるでしょう。

3.実務上の注意点
 入社前研修を実施する会社としては、事故の可能性(リスク)を考慮して、どの程度の研修を実施すべきかを決定しなければなりません。完全にリスクを回避したいのであれば、研修をしないか、文字通り一般研修にとどめるべきでしょう。しかし、4月からの即戦力を期待したり、本採用前の選別のための主要な方法として位置付ける場合は、積極的にアルバイト労働契約書を結び、賃金を支払って、労災保険の適用を求め(雇用者数の中に入れ保険料も納付)、更に、上積補償に対するための損害保険による対応をなすべきです。特に労災の認定が得られない場合に備えて過労死対策におけると同様に、労災認定の有無に拘らず支給される損害保険会社の傷害保険や生命保険などへの加入が検討されるべきでしょう。

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