法律Q&A

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電車を乗り過ごした場合の事故

弁護士 石居 茜(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2004.03

問題

私は、会社から帰宅する途中、通勤電車の中で座席に座ったら、つい仕事の疲れからうとうとして眠ってしまいました。気がつくと乗り過ごしていたので、慌てて引き返そうと電車を降り、反対方向の電車に乗ろうと反対方向電車のホームに向かいましたが、その際、階段で足を滑らせて負傷してしまいました。労災保険の給付はあるのでしょうか。

回答

 直ちに引き返し、寄り道等をしないで帰宅した場合には、通勤経路の逸脱とはみなされず、労災保険の給付があるものと考えられます。もっとも、長時間乗り過ごしてしまった場合には逸脱とみなされることもあるでしょう。
解説
1.通勤災害に対する労災保険給付の要件
 労働者災害補償保険法(以下、労災保険法と言います)上の通勤災害として労災保険が給付されるためには、労働者が、「就業に関し」、「住居と就業の場所との間を」、「合理的な経路及び方法により往復する」ことが必要であり、通勤経路の逸脱及び中断があった場合には、逸脱・中断の間及びその後の往復は通勤と扱わないとされています(労災保険法7条2項・3項)。

 従って、本件では、電車を居眠りによって乗り過ごしてしまったことが通勤経路の逸脱に当たらないかが問題となります。
2.「通勤経路の逸脱」の意味
 通勤経路の逸脱とは、「通勤の途中において就業又は通勤とは関係のない目的で合理的な経路をそれること」をいい、通勤の中断とは、「通勤の経路上において通勤とは関係のない行為を行うこと」をいうとされています(昭48・11・22基発644号)。

 この点、バイク通勤者が帰宅する途中、雨で前方がよく見えなかったため、通勤経路を誤り、300メートル行き過ぎた時点で、それに気づいてUターンして戻る途中、進行方向左側に駐車しているダンプに気づかず追突し、負傷したという事案につき、深夜で、雨天の中でバイクを運転しているときに通常の通勤経路を見誤るということは一般にあり得ることであって、そのために通常の経路に服するという行為を全体として通勤行為と判断し、通勤災害と認めた例があります(「通勤災害認定事例総覧」労働省(当時)労働基準局補償課編173頁)。

 逸脱とは、「通勤の途中において就業又は通勤とは関係のない目的で合理的な経路をそれること」をいうところ、上記のような状況の下では、通勤経路を見誤ることは通常起こりうることであり、労働者の私的行為は認められないので、通勤災害と認められたものといえます。

 また、労働者が、オートバイで帰宅する途中、タイムカードを押し忘れたことに気づき、もと来た道を引き返している途中で事故にあって死亡した事例で、タイムカードの押し忘れが確認され、退勤時間と災害発生時刻から通勤行為の逸脱中断があったとは考えられないことから、労働者は、就業に関連する目的のために会社へ引き返す途中であったと判断され、通勤災害と認められた例があります(前掲184頁)。

3.質問への回答
 本件では、電車を乗り過ごしてしまった時間によって一概には言えませんが、誤って電車を乗り過ごしたのであり、このようなことは通常一般的にありうることといえます。加えて直ちに引き返したのですから、「通勤の途中において就業又は通勤とは関係のない目的で合理的な経路をそれた」とはいえず、基本的には乗り過ごしたために引き返した経路も含めて通勤経路といえるでしょう。

 もっとも、乗り過ごした時間が長時間に渡る場合には、通勤経路の逸脱とみなされてしまう場合もあるでしょう。

 また、乗り過ごした後、引き返さず途中下車して、買い物など私用を行った場合には、通勤経路の逸脱といえ、その後帰宅する行為は通勤行為とはされません。

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