法律Q&A

分類:

従業員の暴行による負傷は業務災害にあたるか

社会保険労務士 深津 伸子(ロア・ユナイテッド社労士事務所)
2004.04

問題

当社の課長が、事業所内にて仕事中に、部下Aから暴行を受け、負傷をしてしまいましいました。課長である被害者は以前から、Aの勤務態度がよくないと感じて度々注意をしており、Aはその注意を快く思っていないようでした。今回の暴行も被害者から、仕事に関する注意を受けてAが逆上したことが原因です。このような場合に被害者は労災保険からの給付を受けることはできますか?

回答

 当該暴行の原因が、単なる私的怨恨によるものではなく、課長による通常の業務上の指導・叱責等への逆恨みによるもので、特に、暴行が、そのような指導中又はこれに近接したような時期に行われるなど、職場での業務遂行中に生じた場合などでは、業務起因性が認められ、労災保険が適用される場合が多いでしょう。
解説
1.業務災害の認定方法
 労災保険法の「業務上」の概念は、労基法上と同様のものと解されていますが、裁判例や行政解釈では、業務遂行性及び業務起因性といった概念を使って判断しています。業務遂行性とは、労働契約に基づき労働者が使用者の支配・管理下にあること、また業務起因性とは、業務と負傷・疾病との間に経験則上、相当因果関係があることを意味していると解されています。さらに、行政解釈によれば、業務遂行性は業務起因性の第一次的な判断基準とされています。

業務遂行性が認められる負傷・死亡は、次の3つに大別されます。

[1] 事業場内で業務に従事中の災害

[2] 事業場内での休憩中や、始業前・終業後の事業場内での行動の際の災害

[3] 事業場外で労働しているときや、出張中の災害です。

こうして、業務遂行性が認められない災害は、通勤途上及び事業場外での任意による親睦活動や純然たる私的行動中のものとなります。

2.業務起因性
[1]の業務遂行性が認められる作業中の災害につきましては、原則として業務起因性が認められますが、それが自然現象、外部の力、本人の私的逸脱行為などによる場合は業務起因性が認められません。例えば建築現場にて、職の斡旋を依頼しに来た大工と、当該現場の作業員が口論となり、大工が作業員を殴って死亡させた事件で、審査の結果、死亡した作業員の嘲笑的態度や同人の感情を刺激する言辞を述べた行為が、同人の暴力を挑発させたことによるものであって、作業員の一連の行為は本来の業務に含まれず、業務に起因したものと言えないとして、訴えが退けられた例があります(倉敷労基署長事件・最一小判昭49.9.2民集 28巻6号1135頁)。
3.質問への回答
 まず、本件では、当該暴行が事業所内での仕事中に発生したものであるので、職場にて業務遂行中に生じたものと認められます。

 次に業務起因性があったかどうかがポイントになります。被害者は本件事故以前から、Aの勤務態度がよくないとして、Aに対して度々注意をしており、また課長である被害者がAを監督することは職務であり、事故発生時の注意も仕事に関する注意として行われました。そこで、課長の指導・叱責が社会的相当性を欠き、Aへの嘲笑的・侮辱的態度や同人の感情を刺激する言辞を述べるなどの挑発的なものでない限り、当該暴行とそれに伴う負傷は、当該被害者との私的怨恨・喧嘩闘争等によってなされたものとは評価することはできず、仕事上の指示、注意という業務に関連して、その業務に内在または随伴する危険が現実化して発生したものというべきであり、業務起因性が存すると解され、本件災害は業務上の災害と認められる可能性が高いでしょう。その他、判例としては、暴行による原告の負傷について、業務起因性を認め、これを否定した被告労基署長の処分を違法として取り消したものがあります(新潟労基署長事件・新潟地判平 15.7.25労判858号170頁)。

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