法律Q&A

分類:

他人の業務を手伝っていて怪我をした場合業務上災害は認められるか

弁護士 筒井 剛(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2002.08.26

問題

先日、当社の修理工が自己の作業現場での作業中、顔見知りの他社の労働者の作業を自発的に手伝っていたところ、3トンの重量物が落下してきて死亡してしましました。このような災害も業務上災害と認められるのでしょうか。

回答

 原則として業務上災害とは認められない。
解説
1.業務上災害と認められるためには

 業務上災害と認められるためには、労働者に生じた負傷・疾病・傷害・死亡等が、「業務起因性」を有していなければならず、その第1次的要件として「業務遂行性」を有していなければなりません。

 ここで「業務遂行性」とは当該労働者が労働契約を基礎として形成される使用者の支配下にあることをいい、「業務起因性」とは業務と傷病等との間に経験法則に照らして認められるところ相当因果関係が存在することをいいます。

2.他人の業務は原則として「業務遂行性」がない

 当該労働者が手伝った他人の業務が、当該労働者の業務と何ら関係のない業務であれば、業務遂行性は認められず、業務上災害とは認められません。このことは、昭23.6.24基収2008が、電気工修理工が、普段世話になっている他事業の顔見知りの労働者の作業を手伝っていると、事故で4トンの重量物が落下し、これを避けようとしてトラック木枠にぶつかり死亡した災害について、業務上の災害ではないとしておりますし、さらに、昭32.9.17基収4722 が、貨物自動車の車検を受けに行った事務員が、車検場の検査官達がストーブの煙突の取り外しに苦労しているのを見て、その作業を手伝うために昇ったプラタナスの木から降りるときにその枝が折れて転落、負傷し死亡した事例についても、業務上の災害ではないとしていることからも明らかです。

 したがって、自己の業務と何らの関係もない他人の業務を手伝っていた際に遭遇した災害については、原則として業務上災害とは認められません。

3.他人の業務でも自己の業務と言える場合は「業務遂行性」がある

 もっとも、他人の業務であったとしても、その他人の業務が本来の自己の業務を行うために必要な行為であれば、業務遂行性が認められるでしょう。

 例えば、昭30.1.4基収5187は、飯場で作業終了後に飲食した労働者が、翌朝使用する食品等を約5キロ余の事務所に取りに行こうとした飯場責任者に同行し、その食料品等が手分けして飯場に持ち帰る途中に川に転落、死亡した例を、業務上災害に該当するとしていますし、昭31.3.31基収4708は、事業主の特命なく、担当業務以外の作業に従事中の事故は、当該事業上の労働者として、当然なすべく期待される行為を行ったと認められるときは業務上の行為にあたるとしています。

 もっとも、「本来の自己の業務を行うために必要な行為」か否かは、あくまでも客観的に判断すべきであり、当該労働者が主観的に必要な行為と判断したのみでは足りないことには、注意が必要です。

4.事業主の特命がある場合

 さらに、日常の業務活動においては、事業主の特命により、他人の業務を手伝うこともあるでしょう。この場合には、事業主の特命により、他人の業務を手伝うこと自体が、自己の業務にあたることとなるものと考えられます。

 したがって、事業主の特命により他人の業務手伝っている際に被った災害については、原則として業務上災害といえるでしょう。

 しかしながら、事業主の特命とはいえ、本来の業務とは全く無関係の業務、例えば社長の別荘の掃除を命じられたような場合にも、業務上災害となるといえるかは一概には判断できません。

 この場合には、個々の具体的事例を分析することにより、業務上災害にあたるか否かを判断せざるを得ないでしょう。

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