法律Q&A

分類:

飲酒運転による事故と労災

弁護士 石居 茜(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2004.11

問題

当社の社員が、得意先への商品の配達を終えて会社へ車で戻る途中、第三者の運転する車と衝突し、腕を切断する事故が起きました。事故を起こした社員は飲酒していたのですが、そのような場合、労災保険給付は行われるのでしょうか。
 また、その社員が自賠責保険金を請求し、支払を受けた場合、労災保険給付に影響はあるのでしょうか。

回答

 労働者の重大な過失による災害として、労災保険給付は制限されるでしょう。また、自賠責保険金の支払を受けた場合には、その支払金額の限度で労災保険給付がなされないでしょう。
解説
1.労災保険給付の制限
 労働者災害補償保険法(以下、労災保険法という)第12条の2の2第2項は、労働者が故意の犯罪行為若しくは重大な過失により、負傷、疾病、障害、死亡という結果を招いた場合には、労災保険給付の全部又は一部を行わないことができると定めています。

 そして、どのような事故の場合に、労働者に重大な過失があると認定されるかが問題となりますが、労働基準局長の通達では、事故発生の直接の原因となった行為が、法令(労働基準法、鉱山保安法、道路交通法等)上の危害防止に関する規定で罰則の附されているものに違反すると認められる場合に、重大な過失があると認定するとしています(昭40.7.31、基発第906号)。

 設問の事案では、飲酒運転であり、道路交通法第65条第1項、第117条の2第1号によって罰則がありますので、労災保険給付は制限される可能性が高いです(昭26.9.27基収第3920号)。

 では、どのくらい制限をされてしまうのでしょうか。上記労働基準局長通達では、以下のように記載しています。

【支給制限の対象となる保険給付】

 労働者の傷病に係る休業補償給付又は休業給付、障害補償給 付又は障害給付

【支給制限の期間】

 支給事由の存する間(年金については、障害の原因となった傷病について、療養を開始した日の翌日から起算して、3年以内の期間において支給事由の存する期間

【支給制限の率】

 保険給付のつど給付額の30%相当額

2.自賠責保険給付との関係
 労災保険法12条の4第1項は、保険給付の原因である事故が第三者によって生じた場合に、労働者に保険給付をしたときは、その給付した価額の限度で、保険給付を受けた者が当該第三者に対して有する損害賠償請求権を取得すると定め、第2項は、保険給付を受けるべき者が、第三者から損害賠償を受けたときは、その価額の限度で保険給付をしないことができると定めています。

 すなわち、設問の社員が、第三者との間で示談し、損害賠償を受けたときは、その範囲で労災保険給付が行われなくなります。

 自賠責保険給付は、自動車事故によって運転者等が損害賠償責任を負う場合に、被害者の損害を填補するために給付されるのですから、労働者が自賠責保険給付を受けたときには、上記労災保険法第12条の4第2項が規定する、第三者から損害賠償を受けたときと同様に扱われることとなり、政府(都道府県労働局長)は、その範囲で労働者に対し、労災保険給付をしないこととなります。

 逆に、労働者が、自賠責保険金の請求をしていない場合には、政府(都道府県労働局長)は、労災保険給付相当額を自賠責保険に対して求償していくことになります(昭41.12.16基発1305号)。

 なお、上記通達は、自賠責保険と労災保険の調整について、「原則として自賠責保険の支払を労災保険の給付に先行させるように取り扱うこと」としていますが、交通事故にあった者の立場からすれば、必ず自賠責保険金の請求を先にしなければならないわけではなく、どちらを先に請求するかは労働者の自由です。

3.設問への回答
 設問の事案では、労働者の重大な過失による事故と認定され、労災保険給付が制限される可能性が高いでしょう。また、労災保険給付の請求の前に、自賠責保険給付を受けていた場合には、その支払の限度で労災保険給付がなされないでしょう。

 当該社員が労災保険給付を受けた場合には、相手方の当該社員に対する損害賠償責任は、その限度で損害が填補されるため、免れることになりますので(損益相殺)、相手方に対し、その後損害賠償請求訴訟を提起した場合には、労災保険給付がなされた分は損害額から控除されるでしょう。

 ただし、労災保険法による特別支給金に関しては、福祉事業の一貫として支給されるものであるとして損害額からの控除を認めない判例が多いですし(最判平成 8.2.23・判時1560号91頁等)、また、労災保険の将来分の給付に関しても、現実の給付がない以上控除を否定する判例が多いです(最判昭 52.12.22・金判548号48頁等)。

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