法律Q&A

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過労死新認定基準の判例による緩和

社会保険労務士 深津 伸子(ロア・ユナイテッド社労士事務所)
2004.12

問題

当社の社員が、くも膜下出血を発症し、障害を負ったため、労働者災害補償保険法の障害補償給付の支給の請求をしたいと言ってきました。本人としては、昼夜連続勤務を頻繁に行っていた発症前6ヶ月の間に、夜間期間中の待機時間をいれても、睡眠時間が1日4~5時間程度しかとれなかった上、昼夜勤務の場合には断続的に短時間の不規則な睡眠しかとれなかったため、疲労が蓄積したことが原因だと言っています。また、当社の記録では、昼夜勤務や不規則な勤務をさせていたことは確かですが、時間外労働はさほど多くはなく、過労死新認定基準を超えていないこともあり、労災の認定が出るか疑問に思っています。

回答

 過労死新認定基準(月80時間以上)を明らかに超えない状態でも、業務内容自体の困難性や長時間労働を招き易い実態、その他睡眠の不足・短さ・不規則であることなども、考慮にいれて、労災が認定される場合があります。
解説
1.過労死等の過労死新認定基準
 厚生労働省は、過労死の認定基準の新たな通達として、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(平13.12.12基発第1063号。以下「過労死新認定基準」という)を示しました。主な改正点は、(1)脳・心臓疾患の発症に影響を及ぼす業務による明らかな過重負荷として、長期間にわたる疲労の蓄積についても考慮すべきであるとし、(2)長期間の蓄積の評価期間をおおむね6ヶ月とし、(3)長期の業務の過重性評価における労働時間の目安を示し、(4)業務の過重性評価の具体的負荷要因として、労働時間、不規則な勤務、拘束時間の長い勤務などの具体的基準を示しました。特に、(2)の長期間の過重業務の負荷要因として、労働時間が最重要と位置づけ、労働時間評価の目安を以下のように、定量的に示しました。

  1. 発症前1~6ヶ月間平均で月45時間以内の時間外労働は、発症との関連性は弱い
  2. 月45時間を超えて長くなるほど、関連性は強まる
  3. 発症前1ヶ月間に100時間又は2~6ヶ月間平均で月80時間を超える時間外労働は、発症との関連性は強い
2.判例による労災認定基準の緩和
 上述の過労死新認定基準に基づいて、同基準の労働時間を超え、労災認定されるケースはみられますが、これを超えない場合はどのように判断されるのでしょうか。

 例えば、電化興業事件(東京地判平15.4.30労判851-15)は、原告の業務が、長期にわたる蓄積疲労をもたらし脳動脈瘤破綻の要因となったと認め、その業務が同人の自然経緯を超えて著しく増悪させ、発症に至らせる程度の過重負荷になったとし、業務起因性を認めました。判決は、1日の昼夜勤務を単純に3時間の時間外勤務とのみとらえることを前提とした被告の主張を採用できないとし、睡眠不足や不規則な勤務が疲労の蓄積に深くかかわる要因となることを認めました。また、睡眠時間が長期間にわたり1日4時間ないし6時間以下である場合は、1日7、8時間である場合と比べ、脳・心臓疾患の有病率や死亡率を高めるとの医学的知見についても判決に述べています。その他、過労死新認定基準に基づいて睡眠時間と業務の過重性との関連につき具体的指標を提示した事件として、レンゴー事件(宇都宮地判平15.8.28労判861-27)、同基準を明らかにクリアしない状態で業務内容自体の困難性や長時間労働を招き易い実態、寒冷期における運動負荷などを考慮して労災認定をした三菱重工長崎研究所事件(長崎地判平16.3.2労判873-43)などがあります。

3.ご質問への回答
 以上に照らし本件を検討しますと、労災認定される可能性はあると考えられるでしょう。ただし、原則としてその業務の過重性、労働時間、労働時間以外の負荷要因などについて、総合的に判断されますので、認定要件にあてはまるかどうかはそれぞれのケースによって異なるといえます。

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