法律Q&A

分類:

部下の暴行による障害は「業務上」の災害にあたるか

弁護士 木原 康雄(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2005.01

問題

以前から仕事を怠け、私の指示にもきちんと従わない部下がいたので、私は部下を呼びつけ、言われたとおりに仕事をしろと叱りつけ、また、あまりに頭にきたので「親のしつけがなっていない。親がバカならお前もバカだ。」と怒鳴りました。その直後、これに怒った部下が私の背中を何回も蹴ったため、私は、腰部挫傷1か月の傷害を負い、治るまで仕事に行くことができなくなってしまいました。労災として休業補償給付を受けられるでしょうか。

回答

 仕事上の指示・注意が原因であり、また、限度を超えた侮蔑・挑発ともいえませんので、「業務上」の災害として、休業補償給付を受けることができます。
解説
1.業務起因性
 労災保険法による休業補償給付は、労働者が業務上の負傷による療養のために労働をすることができず、その間の賃金を受けられなくなったときに支給されるものです。したがって、労働者の負傷が労務への従事と相当因果関係を有しており、「業務上」の災害といえることが必要になります(業務起因性)。

 そして、上記の相当因果関係があるというためには、災害を、業務に伴う危険が現実化したものと経験則上評価できることが必要です。

2.業務中の同僚・部下からの暴行
 それでは、業務中に同僚・部下から暴行を受けた場合、相当因果関係は認められるのでしょうか。

 この点に関し、本設問とほぼ同様の事案に関する新潟労基署長(中野建設工業)事件判決(新潟地裁平成15年7月25日・労判858-170)は、「当該暴行が職場での業務遂行中に生じたものである限り、当該暴行は労働者(被災者)の業務に内在または随伴する危険が現実化したものと評価できるのが通常であるから、当該暴行が、労働者(被災者)との私的怨恨または労働者(被災者)による職務上の限度を超えた挑発的行為若しくは侮辱的行為等によって生じたものであるなど、もはや労働者(被災者)の業務とは関連しない事由によって発生したものであると認められる場合を除いては、当該暴行は業務に内在または随伴する危険が現実化したものであるとして、業務起因性を認めるのが相当である。」と判示しています。すなわち、業務と全く無関係な当事者間の怨恨や、職務上の限度を超えた挑発的・侮辱的行為に基づいてなされた暴行または単なる喧嘩によるものでない限り、「業務上」の災害と判断されるということです。

 そして、上記判決は、たしかに「親のしつけがなっていない。親がバカならお前もバカだ。」という侮蔑的発言に加害者が憤慨したことが一因になっているけれども、[1]加害者の暴行は、被害者が業務上の指示・注意をしたことに関連してなされていること、[2]発言は、仕事上の指示や注意をする際に、それと関連して不用意に出た言葉であって、ことさらに加害者を挑発したり侮辱したりする意図で発せられたものではないこと、[3]発言の直後に、その場で暴行がなされていること(時間的・場所的近接性)等からすれば、暴行は業務とは関係がない私的怨恨や挑発的・侮蔑的行為、喧嘩闘争によって生じたものではなく、被害者の仕事上の指示、注意という業務に関連して、その業務に内在または随伴する危険が現実化して発生したものと判断し、業務起因性を肯定しました。

 なお、業務起因性が否定された判例としては、長谷川労災行政処分取消請求事件(最高裁一小昭和49年9月2日判決・判タ313)があります。この判決の事例は、仕事中の大工が就職を頼みに来た元同僚の大工と喧嘩となり、殴打されて死亡したというものですが、判決は、被害者が加害者に対し侮蔑的言辞を述べ、さらに同人の呼びかけに応じて仕事場から県道上まで降りてきて嘲笑的態度をとり、同人の暴力を挑発したことに起因するもので、被害者の行為はいかなる点からみても本来の業務に含まれないことはもちろん、それに関連する行為でもないとして、被害者が挑発したことを重視して業務起因性を否定しています。

3.設問へのあてはめ
 上記裁判例を参考に本設問をみると、部下の暴行は仕事上の指示・注意に対してなされていること、あなたの「親のしつけがなっていない。親がバカならお前もバカだ。」との発言は、仕事上の指示や注意をする際に、それと関連して不用意に出た言葉であって、ことさらに加害者を挑発したり侮辱したりする意図で発せられたものではないと考えられること、時間的・場所的に近接していることから、業務に内在・随伴する危険が現実化したものとして業務起因性が認められるでしょう。

 したがって、あなたは労災として休業補償給付を受けることができます。

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