問題
私には4ヶ月の子供がおり、夫も私自身も昼間就業しなければなりません。そこで、私たちが昼間就業している間、夫の会社とは反対方向にある私の実家で子供の世話をしてもらうことにし、毎日夫が子供を私の実家に送ってから、会社に出勤することにしています。ところが、先日、夫が子供を私の実家に預けて駅に向かう途中、転んでけがをしてしまいました。
このような場合、通勤災害と認められるのでしょうか。
回答
- 通勤災害と認められる。
解説
- 1.通勤災害の範囲
- そもそも通勤災害とは、「労働者の通勤による」傷病をいいます(労災保険法7条1項2号)。
そして、ここでいう「通勤」とは、「労働者が、就業に関し、住居と就業の場所との間を、合理的な経路及び方法により往復することをいい、業務の性質を有するものを除く」ものをいいます(労災保険法7条2項)。
しかしながら、「労働者が、前項の往復の経路を逸脱し、又は同項の往復を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の同項の往復は、第一項第二号の通勤」とはされません。
もっとも「当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であって労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行なうための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない」とされています(労災保険法7条3項)。
以上の要件をもう少し詳しく見てみましょう。
- 2.通勤によるとは
- 「通勤による」とは、通勤に通常伴う危険が現実化したと認められる場合をいます。
典型的な例としては、交通事故が挙げられますが、ビルの建設現場から落下してきた物体により負傷した場合、労働者が残業で遅くなり暗い夜道を帰宅する途中で強盗に襲われたり痴漢に出くわして負傷したような場合(昭49・3・4・基収69号、昭49・6・19・基収1276号)なども、通勤災害と認められます。
- 3.合理的な経路とは
- 「合理的な経路」とは、住居と就業の場所との間を往復する場合に、一般に労働者が用いるものと認められる経路をいいます。
経路については、会社に届け出ているような鉄道、バス等の通常利用する経路及び通常これに代替することが考えられる経路が「合理的な経路」となります。
もっとも、合理的な経路は労働者1人について1つだけとは限らず、また最短距離でなければならないわけでもありません。あくまでも一般的に考えられる合理的な経路であれば足りるわけです。
- 4.本件における回答
- 本件では、会社と反対方向の妻の実家に行く途中に災害に遭っていますから、合理的な経路と言えるかが問題となります。
しかしながら、本件の場合、共稼ぎの夫婦の子供は4か月であり、1日中誰かが世話をしなければならない状況にあります。
かかる状況下にありながら、夫婦は昼間就業しなければならず、子供の世話を自ら見ることができないわけですから、妻の実家で世話をしてもらうことが必要といえます。
したがって、夫の会社と反対方向とはいえ、夫が子供を預けるために妻の実家を経由して会社に通勤することは合理的な経路というべきでしょう。
よって、本件災害は通勤災害にあたると考えます。