法律Q&A

分類:

マイカー通勤途上あるいはマイカーでの業務遂行中の事故で従業員が加害者となってしまった場合の会社の責任は?

弁護士 中村 博(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2002.08.26

問題

私の夫は、いつもマイカー通勤をしていましたが、先日交通事故を起こしてしまい、被害者に3ヶ月の入院を要する重傷を負わせてしまいました。被害者の方が、私の夫だけではなく会社にも責任追及をするといっていますが、会社にも損害賠償責任があるのでしょうか。それから、この事故が業務遂行中であった場合はどうなりますか?

回答

あなたの夫が専ら通勤のみにマイカーを使用していたのであれば、会社にまで損害賠償責任が生じる可能性はほとんどないといえますが、そうではなく、業務にも使用していたのであれば、場合によれば、会社に損害賠償責任が生じる場合があり、裁判例も分かれていますので、慎重な判断が求められるところです。
解説
1.マイカーを通勤のみに使用していた場合
 このような場合は、企業が運行供用者として、あるいは使用者として損害賠償責任を負うことは、まずもって考えられません。それは、会社側が福利厚生という観点から駐車場を提供したり保険料を負担している事情があっても、業務使用という客観的事実や目的がない以上同じと考えられます。但し、会社側がマイカー保有や回カー通勤を共用するような特殊な事情がある場合は、運行供用者責任が会社に発生する余地があります。
2.マイカーを通勤のみならず業務にも使用していた場合
 この場合には、会社に運行供用者責任あるいは使用者責任が生じる余地があり、裁判例は次の通りです。まず、その利用に対して手当てが支給されており、事故当日も会社の指示によりマイカーで工事現場へ出かけその途上で事故を起こした事案において、会社の運行供用者責任を肯定している(最判昭52.12.12 判時878-58)一方、会社がマイカー通勤や工事現場へのマイカーでの往復を禁止していたが、従業員が勝手にこれを無視して出張し遠隔地の工事現場へ出かけたときに事故を起こした事案では会社の使用者責任を否定しており(最判昭52.9.22判時867-56)、裁判例は分かれています。そこで、いえることは、会社の損害賠償責任を認めるか否かは、[1]その従業員の地位や担当職務[2]日頃そのマイカーが会社の業務に使用されていたか否か[3]その事故が通勤・退勤・業務中・私用のいつの時期に生じたものか[4]ガソリン代や保険料の負担や駐車場の提供を会社がしていたか否か[5]会社がマイカーの業務使用を明確に禁止していたか否か[6]会社が従業員のマイカー使用を禁止してもその業務私用を放任若しくは黙認していたか否か等の諸事情を総合的に考慮して判断しているのです。従って、使用者たる会社が、従業員の業務利用につき生じた交通事故により責任を負担しない為には、明確にマイカーの業務使用を禁止し、違反について黙認しないことが肝要であり、更には、マイカー通勤に対して一定の便宜供与を行うことは当然としても、積極的にマイカー通勤を指示・奨励しないことも重要でしょう。
3.結論
 そこで、結論は回答の通りになりますが、従業員がマイカーを通勤・退勤だけでなく業務使用していた場合には、会社がマイカーの業務使用を禁止しその違反を黙認せずにいれば、基本的には、損害賠償責任(運行供用者責任・使用者責任)を負うことはないといえるでしょう。

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