法律Q&A

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大工の「労働者」性

弁護士 石居 茜(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2005.06

問題

私の仕事は大工であり、私自身人を雇わず、工務店から仕事を貰って生活をしています。先日、建築現場で作業中に足場から落ち、負傷したのですが、そのような場合、労災保険の療養補償給付及び休業補償給付を受けられるでしょうか。

回答

 工務店との間の指揮監督関係の存否、報酬が労務に対する対価か、それとも仕事の完成に対する対価か、事業者性を有するかなど実態を考慮して「労働者」といえるかどうかで判断されます。
解説
1.労災保険法上の「労働者」
 労災保険法上の「労働者」は、労働基準法第9条に定める「労働者」と同じであると解釈されています。

 すなわち、事業に使われる者で、賃金を支払われている者のことをいい、パート等の名称には左右されず、雇用契約を書面により締結しているかどうかも問わず、実態によって「労働者」といえるかどうかを判断します。

 とはいえ、会社と雇用関係のない事案では、たびたびこの「労働者」性が問題となっており、例えば、自己の所有するトラックを持ち込み、会社に専属して製品を運搬する仕事をしていた男性が荷下ろし作業中に事故で死亡した事案で、労働基準監督署は、「会社に対して使用従属関係の下に労務を提供し、賃金を得ている労働者とは認められない」として、遺族補償給付等の不支給の決定をしましたが、裁判所は、当該男性が、他社の運搬業務に従事することができなかったこと、車両の燃料代や整備費などの費用負担は自分の裁量によって調節できるようなものではなく、会社から得ていた収入も高額ではないこと、当該男性は、会社の経営政策上の必要性から会社の組織外に置かれていたものであって、それは当該男性が望んだことではなく、自らの計算と危険負担において業務を行っていたとはいい難いので事業者性を有するとはいえないこと、当該男性が会社の指示に対する諾否の自由をほぼ完全に制限されており、会社の指揮監督下において労働していたと認められること等から、労災保険法上の「労働者」に該当すると判断し、不支給処分を取消す判断を示した事案があります(新発田労基署長事件・新潟地判平4.12.22・労判629-117)。

 他方、同じく自己所有の車両の持ち込みの事案でも、会社の指揮監督下において労務の提供を行っているとはいえないとして「労働者」性を否定した最高裁判例もあります(横浜南労基署事件・最一小判平8.11.28・労判714-14)。

 判断のポイントは、会社の指揮監督下において労働し、労務の対価に対して報酬が支払われていたといえるかどうか、当該労務提供者が自らの費用負担と裁量を持って仕事をし、報酬が労務に対する対価というより仕事に対する対価であるなど、事業者性を有するかどうかであるといえます。

2.大工の「労働者」性
 藤沢労基署長(大工負傷)事件(横浜地判平16.3.31・労判876-41)は、作業場を持たず、他人を雇わず、1人で工務店の仕事を請負う形で稼動していた大工が、マンションの内装工事中に負傷したことについて、労災保険の療養補償給付及び休業補償給付の申請をし、不支給処分となったため、処分の取消を求めた事案ですが、「労働者」性は否定され、請求が棄却されました。

 同判決は、労災保険法上の「労働者」とは、労働基準法上の「労働者」と同一であるとした上で、労働者とは、「使用者の指揮監督下に労務を提供し、使用者から労務に対する対償としての報酬を支払われる者」をいうとしました。

 そして、昭和60年12月19日付労働基準法研究会報告「労働基準法の「労働者」の判断基準について」及び平成8年3月の同研究会労働契約等法制部会労働者性検討専門部会による「建設業手間請け従業者についての労働者性の判断基準に関する報告」の2つの報告書の判断枠組みに沿って、下記のように、当該大工の労働者性を検討しました。

[1] 指揮監督下の労働か否かについて

 判決は、当該大工が、具体的な作業内容、方法、作業時間等について、工事の性質上必要なものを除いて特段指示されることなく自己の裁量で行うことができ、当該大工が、工務店から受けていた指示は、工事の請負における注文主からの通常の指示といえるので、工務店の指揮監督下で労働をしていたと評価することはできないとしました。

[2] 報酬の労務対償性について

 当該大工が工務店から受け取る報酬には、請負と常用の2種類がありましたが、請負方式は、仕事の完成までに要した労働時間と報酬額とが全く無関係であり、大工の腕の差が報酬に反映される方式として合理性があり、かつ、当事者も納得していた方式であるところ、当該大工と工務店との間では請負方式の報酬の支払が中心であり、日当方式の常用とは明らかに区別されていたこと、当該大工は、請求をするときには請求書を出す方式で請求をしていたことから、当該大工の報酬は、労務に対する対価ではなく、仕事の完成に対する報酬であると判断しました。

 また、当該大工には職長手当が支払われていましたが、職長といっても、あくまで工務店の現場監督が不在の時の代理として現場の大工の調整を頼んだに過ぎず、工務店が行うべき他の事業者との調整作業は当該大工に依頼されていなかったこと、工務店の従業員である現場監督には、賃金とは別に職長手当が支払われていないこと等から、職長手当の支払を持って労務対償性のある支払をうけているとはいえないと判断をしました。

[3] 事業者性の有無について

 当該大工は、自らの大工道具でほとんどの仕事を賄うことができ、工務店の機材を使うことは少なかったこと、工務店から得ていた報酬額は工務店の従業員よりも高いこと、その他当該大工が工務店の名刺を使用していなかったこと等も考え合わせると、事業者性を否定できないとしました。

[4] 専属性の程度について

 当該大工は当時その工務店の仕事しかしていなかったのですが、それは、工務店が当該大工を引き止めておくために実入りがよい仕事を回したり、仕事が途切れないよう配慮していたためであり、かかる事実からすれば、むしろ、当該大工には他の工務店等を選択する相当大きな自由があったというべきであり、当該大工が工務店を転々としていた事実も考慮すると、専属性は高くないとしました。

[5] 結論

 以上の事実及びその他の諸事情を考慮し、当該大工は、「使用者の指揮監督下に労務を提供し、使用者から労務に対する対償としての報酬を支払われる者」とはいえないとの判断を示しました。

3.設問への回答
 労災保険の給付を受けることができる「労働者」か否かは、指揮監督関係の存否、報酬が労務に対する対価か、それとも仕事の完成に対する対価か、事業者性を有するかなど実態を考慮して判断されますので、一人で稼動している大工が「労働者」に該当するかどうかは一概には言えません。しかし、いわゆる一人親方については、他にも不支給処分取消請求を棄却した判例があり(相模原労基署事件・横浜地判平 7.7.20・労判698-73)、上記平成16年判決の事案のように、報酬と対価の対照関係が薄く、大工の裁量が大きい場合には、仕事の請負と判断され、「労働者」性が否定される可能性が高いでしょう。

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