法律Q&A

分類:

遺族が重婚的内縁関係にあった場合

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2005.10

問題

A社の社員Bと戸籍上のBの妻Cは, 20年以上の長期にわたり別居していましたが、BCが別居するようになった後に、DはBと親しくなり、18年以上同居して夫婦同然の生活をしていました。ところが、Bが、たまたま労災事故で死亡してしまいました。このような場合,労災保険給付やA社内の労災上積補償協定で補償を貰うのはCとDのどちらになるのでしょうか。

回答

 原則として、Dとなりますが、補償協定については、受給権者を特別に戸籍上の妻に限っていればCとなります。
解説
1 遺族が重婚的内縁関係にあった場合の判例
 労災保険に関してではありませんが、最近、設問同様の状況下での共済年金の受給権者に関して日本私立学校振興・共済事業団事件(最一小判平17・4・21 裁判所時報1386号262頁)は、「BとCの婚姻関係は実体を失って修復の余地がないまでに形がい化していたものというべきで‥Dは,Bとの間で婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者というべきで‥,Cは‥遺族として遺族共済年金の支給を受けるべき『配偶者』に当たらず,Dがこれに当たる」としています。この判決は、私立学校教職員共済法に基づく退職共済年金に関するものですが、私立学校教職員共済法25条において準用する国家公務員共済組合法2条1項3号所定の遺族である「配偶者」(配偶者(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む‥)の条文は、労基法 79条の遺族補償受給権者を定める労基則42条(「労働者の配偶者(婚姻の届出をしなくとも事実上婚姻と同様の関係にある者を含む‥)」)の条文と同一で、従って、これを受けた労災保険法16条の2第1項1号等の定め(「妻(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む‥)」)とも共通し、これらの判断においても、同様に解されるものと予想されます。そこで、原則として、回答のように解されます。
2 重婚的内縁関係下での配偶者の確定に関する従来の処理
 労働法、社会保障法等では、配偶者の死亡時の救済については、いわゆる内縁関係といわれる事実婚をも保護の対象としています。ところが、離婚手続きの遅延・懈怠等により、法律婚の妻と事実婚の妻との重婚的内縁関係が発生する場合について、行政解釈は、現在でも、法律婚を重視し、「内縁の妻を含むとは、民法にいう配偶者のいない場合にかかる者をも受給権者として認め‥ るもので」重婚的内縁関係の場合の「受給権者は法律上の配偶者すなわち離別中の妻である」(昭22・12・10基発464号)、としています。ただし、近時、極めて例外的に事実婚を配偶者と認める場合も認めてはいました(平10.10.30基発627号、東大「注釈労働基準法」下巻919頁)。今後は、取扱の変更が求められるものと予想されます。
3 企業実務における対応の必要
 実は、労基則42条の配偶者の定義は、多くの企業で、上積災害補償規定などの受給権者の定義にも利用されています。したがって、企業内でも、現行規定による場合に、重婚的内縁関係下での受給権者の確定が問題となり得ます。そこで、このような紛争を回避するためには、機械的に処理し易い法律婚優先を明文化することが得策かと解されます。特に、事実婚優先とすると、遺族から企業への損害賠償請求が成り立つ場合には、法律上の妻の相続人としての賠償請求につき、上積給付等が損害の填補として認められないことがあり得(最二小判平16.12.20裁判所時報1378号15頁参照)、災害補償協定による内妻への給付と戸籍上の妻への賠償の事実上の二重払いを企業が強いられることになりかねないからです。

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