法律Q&A

分類:

定期健康診断を受けない従業員に対する懲戒処分

弁護士 村木 高志(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2006.05

問題

会社の定期健康診断で、放射線の身体への影響を理由に胸部X線検査の受診を拒否した従業員に対して、会社としてはどのような対応をすればよいのでしょうか?

回答

 労働安全衛生法で定められている定期健康診断については、労働者に受診義務がありますので、会社としては、原則として当該従業員に対して懲戒処分を課すことが可能です。
解説
1 法律上実施が義務付けられている健康診断
 労働安全衛生法(以下、労安衛法といいます)は、会社に対して従業員の健康管理義務を課しています。そして、会社は、常時使用する全ての従業員に対し、雇入れ時と毎年1回定期的に医師による健診を実施しなければなりません(労安衛法66条、労安衛則43条から45条)。このような労安衛法上の定期健康診断は、法定健康診断と呼ばれ、法律上従業員に受診義務が課せられています(労安衛法66条5項本文)。ただし、従業員が、会社の行う指定した医師または歯科医師が行う健康診断を受けることを希望しない場合には、他の医師または歯科医の健康診断を受け、その結果を証明する書面を会社に提出することができるとされ(労安衛法66条5項ただし書)、従業員に医師選択の自由が認められています。
2 受診義務違反があった場合にどうするか
 胸部X線検査は、身長や体重の測定などとともに、定期健康診断の診断項目となっています。そして、法定健康診断については、従業員に受診義務がありますので、従業員が胸部X線検査の受診を拒絶することは認められませんし、受診拒否は当然に懲戒処分の対象になると考えられます。ところが、愛知県教育委員会(減給処分)事件において、第一審判決(名古屋地判平成8年5月29日労判722号77頁)は、公立中学の教師には、法律の規定の解釈上、健康診断の受診義務はないと判断し、当該教師に対する減給の懲戒処分を違法であるとして取り消しました。しかし、同事件の高裁判決(名古屋高判平成9年7月25日労判729号80頁)は、当該教師の受診義務を認め、受診拒否を理由とする減給の懲戒処分を有効としました(なお、この判決は、最高裁でも支持されました)。したがって、この判決に照らせば、上記のとおり、X線検査を拒否する従業員に対して、懲戒処分を課すことも可能であると考えられます。なお、この判決は集団感染の可能性が高い中学生に接する生活環境であることなども判断要素として考慮していますが、基本的には、同じく集団生活をしている会社の場合にも当てはまるものと言えるでしょう。
3 X線検査の有害性との関係
 また、上記の高裁判決は、受診拒否の理由となった胸部X線検査の有害性についても言及しています。同判決は、定期健康診断において胸部X線検査を実施することについては、肺結核罹患の早期発見の見地からその医学的有用性が依然と存在するところ、X線暴露による人体への影響はゼロではないとしても、ほとんど考慮するまでもないと述べています。この点については、確かに、現在においても、X線検査の有害性を軽視することはできずX線検査を縮小して実施するような傾向はありますが、X線検査に受診義務を否定するほどの危険性があるとまでは考えられていないと言えます。もっとも、妊娠中の女子従業員など人体への影響のおそれが明らかに高い者については、X線検査の受診義務がないと考えるべきでしょう。また、実際の対応としては当該従業員に対して強く説得をして(たとえば受診命令などを出す)、それでも従業員が受診を拒否し続けた場合に、懲戒処分の措置をとることになるでしょう。

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