法律Q&A

分類:

入社前研修やインターンシップ中の事故

社会保険労務士 深津 伸子(ロア・ユナイテッド社労士事務所)
2006.11

問題

当社では、来年から、採用内定者研修を実施しようとしています。また、今後は、インターンシップの学生を受け入れ、学生の能力を試し、その中から優秀な学生を採用することも考えています。このような場合に、万一の事故に対して、どのような備えをしておく必要があるでしょうか。

回答

 ご質問の採用内定者や学生が、研修や実習の態様から判断して労働基準法上の労働者とみなされる場合と、そうでない場合とがあります。労働者とみなされる場合には、実習中の事故に関しても労働者災害補償保険法の適用がありますが、そうでない場合には、一般の傷害保険等への加入を検討されるべきでしょう。
解説
1 入社前研修とインターンシップ
 入社前の採用内定者に対して、企業の業務への知識を習得させる等の研修を行なうことがあります。また、インターンシップとは、学生が実務経験を積み、職業意識を高めるための企業内研修のことです。夏休みなどの長期休暇を利用して、インターンシップを受け入れる企業に、学生が自発的に申し込んで行なわれたり、大学の正規の科目の中に組み込まれて単位を取得できる場合などがあります(岩出誠「実務労働法講義改訂増補版上巻」116頁)。
2 研修生の労働者性の判断基準
 研修中の事故に対して、行政解釈は、研修生が労基法9条の「労働者」に当るかどうかという観点から、いくつかの判断を示しています(労働者と認めた例として、造船会社で実施中の商船学校の生徒:昭23.1.15基発49等、否定された例として、工学部学生の工場実習:昭57.2.19基発121)。

 行政解釈を要約すれば、研修中に労災保険の適用が認められるのは、[1]研修生に支払われる賃金が一般の労働者並みの賃金であり、少なくとも最賃法の規定を上回っていること、[2]実際の研修内容が、本来業務の遂行を含む研修期間中であり、[3]それらが使用者の指揮命令の下に契約上の義務として支払われているものであること、の三つの事実があることがあげられていますが、実際は、実態から判断されるものと考えます。

 例えば、本格的に業務にあたる就労をしていないが、企業に出社して実際に労働を行い、出社の義務を課したり、遅刻、早退に制裁を課したりするようであれば指揮命令関係にあり、一時的な労働を行なう関係(一種の短期アルバイト)に当たると考えられます。しかし、賃金を支払うほどの労働の実体がなく、単に職場見学や職場体験程度であれば、アルバイト以下であると考えられ、労働関係にはなく、給与支払の必要もないとも考えられます。

 入社前研修でも労災保険の適用には慎重な厚生労働省の態度からすると、インターンシップではより一層労災保険の適用はないと判断される可能性が高まります。

3 企業の制度整備
 研修参加・帰宅途上の事故は別として、研修施設などの企業内の事故に対しては、労災保険の適用の有無にかかわらず、企業が研修生に対し、安全配慮義務を負うことは避けられず、事業主に事故への過失が認められれば研修生は、企業に対して損害賠償の請求をすることができます。

 研修を実施する企業としては、事故の可能性(リスク)を考慮して、どの程度の研修を実施すべきかを決定しなければなりません。完全に就労中の事故へのリスクを回避したいのであれば、研修をしないか、座学の一般研修程度にとどめるべきです。しかし、研修の効果を狙って、より実地体験をさせたいのであれば、積極的にアルバイト労働契約を結び、給与を支払って、労災保険の適用を求め、さらには上積補償(民間の保険による)の対応をなすべきでしょう。

 また、入社前研修や学校が関与していない場合は、企業等または学生個人が一般の傷害保険等で個別に措置する方法があります。学校の正課または課外活動としての実習の場合には、学生教育研究災害傷害保険(任意加入)の適用対象となります。

 いずれにせよ、万一の事故の場合の学生個人や学校、受入先企業等の負担をできる限り軽減するため、保険への加入等リスクへの備えを十分検討することが必要です(岩出誠「インターンシップの学生に報酬を支払えば『労働者』と見なされるか」労政時報3507号80頁参照)。

 なお、研修生に対し、機密保持等とともに、災害を受けた場合の取り扱いなどについても誓約書に入れ込んで同意をとっておくとよいでしょう。

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