法律Q&A

分類:

二重派遣と使用者責任

弁護士 木原 康雄(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2006.12

問題

当社はA社に対し業務を委託しており、A社はB社に再委託しています。当該業務はB社の従業員が行っていますが、当該従業員に対し当社が業務上の指揮命令を行う場合もあります。このような場合にB社の従業員が業務を行う際に事故を起こした場合、当社は責任を負うのでしょうか。

回答

 当該B社の従業員に対し、当該業務に関して貴社が直接指揮監督を行っていた場合には、貴社が責任(使用者責任)を負う可能性があります。
解説
1 二重派遣の禁止
 労働者供給事業のうち、労働者派遣(「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないもの」、労働者派遣法2条1号)に該当するもののみ例外的に許容されますが、その他は職業安定法44条で禁止されています。

 二重派遣とは、甲がその労働者を乙に派遣し、乙が当該労働者を更に丙に派遣する場合をいいます。この場合、乙は、自己が雇用していない労働者を他人(丙)のために労働に従事させていますので、上記労働者派遣の定義にあてはまらず、職業安定法44条により禁止されます。

 本件でも、貴社が、B社の従業員に対して指揮命令を行う場合もあるとのことですので、いかに形式上は業務委託(請負でも同様です)の形をとっていたとしても、実態的には二重派遣状態であるとされる可能性があります。二重派遣とされた場合、指導、検査等の行政処分のほか、「1年以下の懲役又は百万円以下の罰金」という刑事罰を受けるおそれもあります。

2 使用者責任の成否
 では、二重派遣とされる場合、B社の従業員が業務上事故を起こしたら、貴社も責任(使用者責任、民法715条1項)を負うのでしょうか。

 使用者責任が成立するためには、当該労働者を直接指揮監督している関係が認められる必要があります。

 この点、複数の労働者を受け入れているような場合、ある労働者に対しては直接指揮監督しており、二重派遣の実態があるとされても、他の労働者に対してはそのような関係がないこともあるため、二重派遣の実態があるからといって、直ちに使用者責任が認められるわけではありません。

 ヨドバシカメラほか事件(東京地裁平成17年10月4日判決・労判904-5)は、厚生労働省が二重派遣に該当するとして文書指導を行ったケースですが、事故(このケースでは、他の従業員に対する暴行事件等)を起こした労働者が担当していた業務について、派遣先が当該労働者に対して具体的な内容の指示を直接していたり、業務内容の決定に関与していたというような事情がないとして、指揮監督関係を認めず、使用者責任の成立を否定しています。

 本件でも、二重派遣に該当するとして厚生労働省の指導等の対象となったとしても、当該B社の従業員に対し、当該業務に関して直接指導監督していたという場合でなければ、貴社は使用者責任は負わないことになります。

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