法律Q&A

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出張中に暴行に遭った場合、労災と認められるか

弁護士 筒井 剛(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2001.06.07

問題

先日、当社の営業社員が、出張中の列車のなかで見知らぬ男性数人にからまれ、目的地の駅で下車した後、同人らから暴行を受けけがをしました。本人によると、一方的に文句をつけられ殴られたとのことです。こうしたケースでは労災として認めれるのでしょうか。また、本人に全面的もしくは部分的な原因があり暴行を受けるという場合も考えられますが、労災認定あるいは補償の給付額に影響があるのでしょうか。

回答

 状況によるが、本人に原因がある場合には労災認定されなかったり、保険給付の一部が受けられなかったりすることもある 。
解説
1.労災と認定されるためには
 労災と認定されるためには、労働者に生じた負傷・疾病・傷害・死亡等が「業務上」生じたと認められる必要があり、「業務上」生じたと認められるためには、傷病等が業務遂行中に、かつ、業務に起因して発生したものであることが必要とされています。
2.「業務遂行性」と「業務起因性」とは
 ここで「業務遂行性」とは当該労働者が労働契約を基礎として形成される使用者の支配下にあることをいい、「業務起因性」とは業務と傷病等との間に経験法則に照らして認められるところ相当因果関係が存在することをいいます。
3.「業務遂行性」と「業務起因性」の関係
 「業務遂行性」と「業務起因性」との関係は前者は後者の第1次的基準をなすといわれており、前者がなければ後者は成立せず、前者が存在しても後者の成立については独自の検討を要します。

 もっとも、業務遂行性が認められれば、特に業務起因性についての反証がない限り、一般に労災と認められる傾向にあります。ここで、業務起因性についての反証とは業務逸脱行為・恣意的行為・私的行為等が挙げられます。
4.出張中の「業務遂行性」
 自宅から直接主張先に向かう途中で被災した場合には、一般的には労災と認定される傾向にあるようです。出張先から直接自宅に帰る途中の被災も同様です。自宅を出てからは会社の支配下にあるわけですから、業務遂行性が認められ、業務起因性についての反証がなされない限り、労災と認定されることになるでしょう。
5.出張中の被災の「業務起因性」
 そこで業務起因性の反証が問題となりますが、この点につき、最近興味深い判断がなされました。即ち、出張からの帰途に新幹線の車内で、会社員が覚せい剤使用の無関係の男から刺殺された事件で、大宮労基署は、遺族から出された労災保険の遺族補償給付請求に対して、「業務起因性」の確認ができないとの理由で不支給決定を行ったのですが、それを不服とする遺族らの不服審査請求に対し、平成10年8月31日埼玉労災補償保険審査官は、業務起因性を肯定し一転して労災を認めたのです。その理由としては、[1]日程の都合で車内で行なっていた出張結果の検討会の声を「うるさい」とする男から殺害された[2]検討会をしていたため、退避の可能性のない状況で災害が起こった等を挙げています。

 したがって、本件においても上記[1][2]のような事情があれば、労災と認定されるでしょう。
6.「業務起因性」の反証
 もっとも、出張の往復途中においても、業務逸脱行為・恣意的行為・私的行為等業務起因性の反証があれば、労災と認定されません。たとえば、出張の途中で私用のために出張には不要な回り道をしたりしますと、その回り道で発生した災害については労災とは認められませんので注意が必要です。
7.労働者に原因がある場合の労災認定
 では、労働者本人に全面的もしくは部分的な原因があった場合には労災と認められるのでしょうか。

 この点、労働者本人の行為が全面的な原因となって被災したといえる場合には、原則として労災とは認められないでしょう。

 そのような場合には恣意的行為あるいは私的行為といえ業務起因性が否定されるからです。

 判例においても、甲が元同僚の乙に殴られて死亡した事例おいて、甲が乙に対し嘲笑的態度をとり、乙の暴力を誘発したなどの事情があるときは、甲の死亡はその業務に起因したものとはいえず労基法79条の「業務上死亡した場合」にあたらないとしています(最判昭49・9・2判タ313号255頁)。

 もっとも部分的な原因があるに過ぎず、業務起因性の反証がなされない場合には、労災と認定される事例も考えられるでしょう。
8.労働者に部分的な原因がある場合の補償の給付額
 労働者に部分的な原因しかなく労災と認められた場合においても、その原因が労働者の重大なる過失が原因の場合には政府は保険給付の全部または一部を行わないことができます(同条2項)。

 したがって、この場合には補償の給付額に影響がある可能性があることに注意する必要があるでしょう。

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