- (1)変形労働時間制とは
- 変形労働時間制(変形制)とは、代表的な1箇月単位の変形制(労基法32条の2)を例にとると、「使用者が,就業規則その他これに準ずるものにより,1箇月以内の一定の期間(単位期間)を平均し,1週間当たりの労働時間が週の法定労働時間を超えない定めをした場合においては,法定労働時間の規定にかかわらず,その定めにより,特定された週において1週の法定労働時間を,又は特定された日において1日の法定労働時間を超えて労働させることができるというもの」です(大星ビル管理事件・最判平14.2.28労判822-5)。例えば、単位期間を4週間とした場合、最終週につき所定労働時間を45時間と設定しても、その他の週の労働時間を短くすることにより、単位期間4週間以内における週あたりの平均労働時間を40時間以内(40時間×4週=160時間以内)に収めれば、所定労働時間が45時間の週について、労働時間が40時間を超えるときでも(45時間以内であれば)労基法32条1項には違反しないものとして扱われます。
- (2)変形制の種類
- 変形制には [1]1ヵ月単位の変形制(労基法32条の2)、[2]1年単位の変形制(同32条の4および4の2)、[3]1週間単位の非定型的変形制(同32条の 5)、という3つの種類があります。そして、単位期間の長短により弾力化の程度や労働者に与える影響が異なるために、各制度にはそれぞれ異なる要件が設けられています。即ち、1ヵ月単位の変形労働時間制の場合は、使用者が作成権限をもつ就業規則によって導入することができますが(労使協定でも導入が可能)、1年単位の変形制の場合は、事業場において過半数の労働者を組織する労働組合がある場合にはその組合、ない場合には過半数の労働者を代表する者との労使協定(P11-3参照)を締結する必要があります(その他にも、1日の労働時間の限度が10時間、1週の労働時間の限度が52時間とされるなどの制約があります)。
- (3)労働時間の特定
- 変形制における労働時間の特定の点につき、判例は(前掲・大星ビル管理事件)、変形制が「適用されるためには,単位期間内の各週,各日の所定労働時間を就業規則等において特定する必要がある」とし、いわゆる勤務割表によるシフト勤務につき、就業規則等での「業務の都合により4週間ないし1箇月を通じ,1週平均38時間以内の範囲内で就業させることがある」旨の定めをもって「直ちに変形労働時間制を適用する要件が具備されているものと解することは相当ではない」としつつも、「月別カレンダー...に基づいて具体的勤務割である勤務シフトが作成されて...,これによって変形労働時間制を適用する要件が具備されていたとみる余地もあり得る。しかし,そのためには,作成される各書面の内容,作成時期や作成手続等に関する就業規則等の定めなどを明らかにした上で,就業規則等による各週,各日の所定労働時間の特定がされていると評価し得るか否かを判断する必要がある」とし、行政解釈(昭63.3.14基発150)の遵守を求めています。
- (4)変形制と時間外労働等
- 変形制のもとでの時間外労働の算出方法について、判例は(前掲・大星ビル管理事件)は、「特定の週又は日につき法定労働時間を超える所定労働時間を定めた場合には,法定労働時間を超えた所定労働時間内の労働は時間外労働とならないが,所定労働時間を超えた労働はやはり時間外労働となる」と判示しています。これは変形制の下では、法定時間内でも所定時間を超せば時間外労働となる旨を示唆したものとも解され、そうとすれば従来の実務(例えば、1日8時間の範囲内で所定労働時間が定められている日については、法定労働時間の1日8時間を超える労働が時間外労働となる旨の昭63.1.1基発1号など)に大きな変更を迫ることになります。なお、変形制の下でも、深夜業に対する割増賃金の支払は必要ですし、休憩・休日に関する規制も適用されます。