法律Q&A

分類:

どのような場合に賃金の切下げが認められるのか?(P5-6)

(1)賃下方法の多様性とポイント
 賃下の方法としては、以下の通り、[1]報酬・賃金の一部放棄または一時的な引下の合意[2]就業規則の不利益変更[3]労働協約又は組合との合意 [4]年俸制利用の引下[5]変更解約告知[6]配転による業務の変更など種々の方法があります。しかし、裁判例は賃下につき、それが労働条件中最も重要な賃金の低下という労働条件の改悪を意味するところから、とくに大幅かつ中高年労働者等の特定階層への狙い打ち的な急激な賃下に対しては、黙示の合意を否定したり、賃下を招く降格・降級、就業規則の変更や労働協約の締結などを無効とするなど慎重な判断を示しています。
(2)合意
 賃金切下の方法として、先ず、報酬・賃金の一部放棄または一時的な引下の合意による方法があります。勿論その合意には、明示又は黙示の合意を問いません(朝日火災海上保険会社事件・最判平成9.3.25労判713-37は、改正後の賃金の異議をとどめない受領をもって、退職金の積算に昇給分を入れない旨の改正につき黙示の合意を認めています)。もっとも、使用者が労働者の賃金を引き下げるに当たっては、労働者がその自由な意思に基づきこれに同意し、かつ、この同意が労働者の自由な意思に基づいてなされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することを要するとして、賃金切下げの企業の決定・実施に労働者が明示の異議を述べなかったことをもって、この黙示の合意と解することを否定した例もあり(アーク証券事件・東京地判平12.1.31 判時1718-137)、賃金の異議なき受領による黙示の合意が必ず認められる訳ではありません。
(3)就業規則の不利益変更
 就業規則の不利益変更の効力については一般的に、判例は、就業規則の改正に合理性があるかどうかでその効力の有無が決まるとしていますが(前述P2-5参照)、結局、最高裁は、中高年等の一部の労働者に対しての狙い打ち的な労働条件の大幅かつ急激な低下については、「当該企業の存続自体が危ぶまれたり、経営危機による雇用調整が予想されるなどといった状況」というまでの厳格な要件を求めており、そのような条件が満たされない場合には、一般的な合理性判断枠組みに沿った代償措置、激変緩和の代償又は経過措置等に配慮した上での実施がない限り賃下げはできません。
(4)職能資格・等級の導入や同制度適用による等級等の見直し
 降格に関して前述した通り(P3-5参照)、この方法も賃下げに利用され得ますが、現下の裁判例は、事案に応じ判断が分かれています。
(5)労働協約又は組合との合意
 この方法の場合も、賃下げ等を内容とする協約が、一部の組合員をことさら不利益に取り扱うことを目的として締結された場合には無効とされます(有効とされた例として朝日火災海上保険会社事件・最判平9.3.27労判713-27、無効とされた例として中根製作所控訴事件・東京高判平12.7.26労判 789-6等)。
(6)年俸制
 年俸制による賃下げに関して、判例は(デイエフアイ西友事件・東京地判平9.1.24判時1592-137)、傍論ながら、「年俸額に関する合意未了の労働者は、...たかだか当該年度において当該契約当事者双方に対して適用ある最低賃金の額の限度内での賃金債権を有するに過ぎない」としています。
(7)変更解約告知
 企業の経営上必要な労働条件変更(切下げ)による新たな雇用契約の締結に応じない従業員の解雇を認める「変更解約告知」の法理は(スカンジナビア航空事件・東京地決平7.4.13判時1526-35参照)、その要件が厳しく、これによっても賃下げが容易にできることにはなりません。
(8)配転による業務の変更
 この方法による賃下の場合、業務・職種等に伴う賃金・処遇の差異が明確に規定されていることが前提です(P3-2P3-5参照)。

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