法律Q&A

分類:

代表取締役の権限

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2022年2月

代表取締役はどんな権限を持っているのですか。

私は、来期から代表取締役社長に就任することが内定しました。社長業のイメージは分かっているのですが、法律上どのような権限があるのかは全く分かりません。代表取締役は法律上どのような権限があるのでしょうか。

代表取締役は株主総会および取締役会で決定された事項を執行する権限を有し、取締役会から委ねられた事項については自ら決定します。

1.代表取締役とは
 一般的に代表取締役というと社長のことが思い浮かびます。確かに、社長は代表取締役に間違いありません。しかしながら、法律の規定上、代表取締役は必ずしも社長に限るものではありません。法律上代表取締役とは、取締役会により会社を代表する者として選ばれた取締役のことをいいます(会社法362条3項)。すなわち、代表権のある取締役は法律上皆、代表取締役ということになります。社長だけではなく、大企業では、定款で、会長・副社長・専務・常務など置き、これらを代表取締役として選任している場合もあります(なお、専務・常務と「表見代表取締役」の関係については、〔6-3-1〕専務取締役・常務取締役参照)。
 なお、代表取締役は登記事項ですから(同911条3項14号)、代表取締役であれば、商業登記簿の役員の欄にその旨の登記があるはずです。
2.代表取締役の権限
  それでは代表取締役は、法律上どのような権限を有しているのでしょうか。中小企業の代表取締役のイメージからすると代表取締役は会社のことについては何でも決定できるかのようですが、法律上は必ずしもそうではありません。
法律上、代表取締役は、原則的には会社の意思を決定する権限はなく、株主総会または取締役会で決定したことを執行する権限(業務執行権限)を有するにすぎません。
例外として取締役会から委ねられた事項については、自ら意思を決定し、執行することになります。通常は、会社の日常的な業務については、代表取締役に委ねられています。もっとも、取締役会が代表取締役に委ねることのできる事項については限りがあり、会社にとって重要な業務についての意思決定を代表取締役に委ねることはできません(会社法362条4項)(詳しくは〔6-3-4〕取締役及び取締役会の権限参照)。
 この他、会社法が取締役の法定職務権限として規定している事項のうち、総会議事録・定款・株主名簿等の備置(同318条2項、31条1項、125条1項、罰則976条4号)、貸借対照表・損益計算書等の計算書類等の作成・提出・備置・広告(同435条2項、438条1項、442条1・2項、440条1項・2項)等の事務的な職務は代表取締役の職務権限と解されています。代表取締役は以上のとおり、対内的及び対外的に会社の業務を執行する権限を有する訳ですが、対外的に業務を執行するために代表取締役は当然会社の代表権を有することになります。この点、支店長あるいは部長、課長等も会社を代表して取引をすることがありますが、支店長の場合は会社法上は「支配人」としてその支店の営業の範囲に限られ(会社法10条・11条)、また、部長、課長等は特定の事項に関して委任を受けて使用人として、特定受任事項に限られる同14条)のと異なり、代表取締役は、会社の全てのことについて会社を代表する権限を有するのです(同349条4項)。

対応策

以上のとおり、代表取締役の権限は広範にわたっていますから、時には部下の者をうまく使っていかなければその職務の全てを遂行することは困難でしょう。しかしながら、権限が広範であるということは、責任も広範であるということですから、その職務の遂行につき、部下に任せっぱなしにしないで必ず報告を受け、チェックすることが必要です。特に近時株主代表訴訟により株主から代表取締役の責任を追及されたり(会社法847条、847条の4~853条)、取引先や従業員から悪意又は重大な過失があるなどと賠償を求められることも少なくないのですから(同法429条1項)、尚更言えるのではないでしょうか。

予防策

代表取締役としては、何事も自分一人で判断してしまいがちですが、会社の重要な事項の決定については、取締役会の権限なのですから、きちんと取締役会にかけ取締役会の決議を得て行うことが肝心です。そして、後々の紛争を防止するために取締役会を開催したらその都度必ず取締役会議事録を作成し記録を残しておくことが賢明です。

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