法律Q&A

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取締役の違法行為に対する対応

弁護士 浅見 雄輔
1997年4月:掲載(補正:岩出 誠 2008年11月)

取締役が違法行為を行っていることが判明した場合、どう対処することができますか。

私は、A株式会社の株主ですが、最近A社の取締役が会社を自分の持ち物のように利用して私腹を肥やしています。取締役のこのような行為をやめさせる何かいい方法はないでしょうか。

違法行為を行う取締役に対しては、損害賠償請求、違法行為の差止め請求、解任請求、刑事告訴・告発をすることができます。

1.取締役の違法行為
 設問[3-3-1][3-3-2]でも解説したとおり、会社は取締役の持ち物ではなく、取締役だから何をしても構わないというわけではありません。取締役といえども当然、法令・定款の定めに従わなければならず、それらの規定に反して行為をすれば違法と評価され、会社に損害が生じれば賠償しなければなりません(会社法423条参照)。
会社は取締役の持ち物ではなく、取締役だから何をしても構わないというわけではありません。取締役といえども当然、法令・定款の定めに従わなければならず、それらの規定に反して行為をすれば違法と評価され、会社に損害が生じれば賠償しなければなりません(商法266条参照)。
2.違法行為に対する対応1-損害賠償請求
取締役が違法な行為をし、会社に損害を与えた場合には、被害者は会社なのですから本来的には、会社がその取締役に対して損害賠償を請求することになります。但し、その請求に当たっては、監査役設置会社では、取締役同士の馴れ合いを防ぐため、代表取締役に代わり監査役が会社を代表して訴えを提起しなければなりません(会社法386条1項)。
このように会社が取締役に対して損害賠償を請求するのが本来あるべき姿なのですが、現実に会社が取締役に対して損害賠償の請求することはなかなかありません。 そこで、そうした場合に、会社に代わって取締役の責任を追及するために株主に訴えの提起を認めたのが株主代表訴訟の制度です。
3.違法行為に対する対応2-違法行為の差止請求
以上の損害賠償の請求は、現実に損害が生じた後の事後的な対応ですが、現に取締役が違法行為を行っており、そのため会社に損害が生じるおそれがある場合には損害が生じる前にその取締役の行為をやめさせる必要があります。
そこで会社法は、取締役が会社の目的の範囲外の行為、その他法令又は定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、これにより会社に「回復することができない損害」が生ずるおそれのある場合には、株主はその行為の差止を請求できると規定しています(360条1項、3項)。但し、この差止請求権を行使できるのは、全ての株主ではなく、6ヶ月前から引き続き株式を有する株主に限られます。
なお、監査役も差止請求権を有しておりますが、)会社に「著しい損害」が生ずるおそれがある場合に行使することができるとし、株主が請求する場合と異なって要件が緩和されています(385条)。
4.違法行為に対する対応3-解任請求
違法な行為を行う取締役に損害賠償を請求し、あるいは違法行為の差止をしたとしても、取締役の地位に居座り続ける以上再び同じことを繰り返さないとも限りません。そのような場合には、取締役の地位を解任する必要があります。
取締役の解任は株主総会の専決事項で、株主総会はいつでも取締役を解任することができます(会社法339条)。もっとも、株主総会は多数決ですから、多数派の株主が取締役を擁護すれば、その取締役がどのような違法行為を行ったとしても株主総会で取締役を解任することはできません。そこで会社法は、そのように取締役が重大な違法行為を行ったにもかかわらず、株主総会で取締役の解任決議が否決された場合には、株主は取締役の解任を裁判所に請求することができると規定しました(854条)。但し、この解任請求のできる株主は、6ヶ月前から引き続き総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主及び、6ヶ月前から引き続き会社の発行済株式の100分の3以上に当たる株式を有する株主に限られ、しかも、株主総会で否決された日から30日以内に裁判所に解任の請求をしなくてはなりません。
なお、この解任請求の訴えの判決が出るまでの間当該取締役は依然として取締役のままですが、そのまま職務を行わせることが不適当な場合には、判決が出るまでの間、当該取締役の職務執行を停止し、職務代行者の選任を請求することができます(民事保全法23条、24条、会社法917条参照)。
5.違法行為に対する対応4-刑事告発
さらに、取締役が自己若しくは第三者の利益を図り又は会社に損害を与える目的でその任務に背いた行為を行い、その結果会社に損害を与えた場合には特別背任罪が成立し(会社法960条)、あるいは、取締役が職務上会社から預かっているものを自分のものにしたような場合には業務上横領罪が成立しますので(刑法253条)、そのような場合には、捜査機関に対し刑事告訴・告発することができます(刑事訴訟法230条、239条)。

対応策

以上のとおり、取締役の違法行為に対して、株主としては、株主代表訴訟により損害賠償を請求し、違法行為の差止請求をし、株主総会で取締役を解任し、あるいは裁判所に対して解任請求し、場合によっては刑事告訴・告発をすることができます。

予防策

取締役により違法行為が行われた後にどのように対応するかということも大事なことですが、違法行為が行われた後では、後の祭りということが多いでしょう。肝心なのは、取締役に違法行為をさせないことでしょう。それには一度選任したら後は任せっぱなしにせず、株主である自分達が会社のオーナーであり、取締役は自分達が委任しているに過ぎないという意識を持ち、きちんと株主総会を開催して、会社の内容を報告させ、疑問があることは質問し、貸借対照表、損益計算書、営業報告書等の計算書類にはきちんと目を通し(計算書類の閲覧請求権、会社法442条)、時には、会計帳簿の閲覧を請求する(株主の帳簿閲覧請求権、同法433条)など不断の監視をすることが肝要でしょう。

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