法律Q&A

分類:

企業の買収

弁護士 船橋 茂紀
1997年4月:掲載(修正加筆・小林 昌弘2001年2月)

企業を買収する場合の法的手続を教えて下さい。

A地区に出店したいと思っていたのですが、たまたま同業のX社が経営不振に陥っているので、X社を当社の傘下に組み入れようと思います。どんな方法がありますか。

株式取得の方法と合併の方法と営業譲渡の方法とがあります。

1.概観
 大きな組織による経営は、規模の経済の点、市場支配力の向上、研究開発能力の向上、多角経営の実現、生産能力の向上、生産コストの縮小、収益性の向上などをもたらしやすいなどのメリットがあります。そして、大きな組織の実現は、既存の企業を買収することによって早期に実現されます(ダイエーや西武などの経営戦略は勉強になります)。また、既存企業の買収は、新事業分野への参集によるリスクを回避しやすいというメリットもあります。M&Aの手続には、株式取得・合併(設問[4-4-2])・営業譲渡(設問[4-4-3])がありますが、株式取得の方法が一番用いられています。
2.株式取得の方法
 株式取得には、全株を取得する場合と一部の株式を取得する場合とがあります。どの程度の株式を取得するかは被買収企業に対する影響力をどこまで持つかによります。経営権を取得するには、過半数が必要であり、経営権を盤石にするには3分の2の多数(営業譲渡・合併・株式譲渡禁止の定款変更・組織変更などの重要事項が単独で決定できるようになります。)が必要となります。
3.株価の算定基準
 公開会社の株価には一応の取引相場がありますが、閉鎖会社の株価の算定はとても難しい問題です。株価の算定方法には、純資産方式(会社の資産額を基準として株価を算定する方法)、収益還元方式(会社の税引後の収益力を基準として株価を算定する方法)、配当還元方式(会社の配当額を基準として株価を算定する方法)、取引事例比較方式(その会社又は類似の会社の株式売却の事例を比較検討して株価を算定する方法)、国税庁方式(相続税財産評価に関する基本通達の株価算定基準によるもの)、併用方式(右のうち複数のものを併用するもの)などがあります。純資産方式にも、単純に簿価を基準とする方法と時価に評価替した価額を基準とする方法、更に、時価についても、清算を前提とするものと再調達を前提とするものとがあります。また、純資産の算定にあたっての擬制資産及び擬制負債の取扱(加減の可否及び加減の科目など)も問題となります。

対応策

X社の財務状況を完全に把握することは不可能ですので、吸収合併するのは危険です。有用な部門についての営業譲渡を受ける、あるいは、個別資産を譲り受けるという方法もありますが、X社の他の債権者から詐害行為取消訴訟を提起されたり、X社に対する破産申立てがなされるなど紛争に巻き込まれる危険性があります。X社を別会社のままにして、株式を譲り受ける方法が相対的には安全だと思われます。場合によっては、X会社を会社更生して、その手続においてスポンサーとして参加する方法もありえます。

予防策

株式取得後、簿外負債が発見されるなどして、安く買いたたいたはずなのに、実際には大損をしてしまったなどということも良く耳にします。相手先企業の財務状況の十分な事前調査が必要です。また、相手方の会社に株式の譲渡制限があるかないかも調べて、その有無に応じたきちんとした株式譲渡手続を経るようにしましょう。

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