法律Q&A

分類:

看護や家庭の事情などで転勤を拒否できるのか?(P3-3)

(1)配転をめぐる係争の多様性
 前述の通り(P3-2)、企業にとって経営組織を効率的に動かし、多様な能力と経験を持った人材を育成するためにも、配転や転勤は不可欠ですが、他方、従業員にとっては、特に、子供の進学問題を含む家庭事情から単身赴任を招く遠隔地への転勤などについては抵抗があり、裁判所でも配転命令の効力が争われたり、慰謝料請求がなされることもあります。
(2)配転命令権を否定する労働者側の事情への考慮の程度
[1]最高裁判例の影響
前述の通り(P3-2参照)、判例では(東亜ペイント事件・最判昭61.7.14労判477-6)、職種・勤務地の限定合意がない場合は、比較的緩やかに配転命令の一応の有効性を認める傾向にあるため、実際上の配転命令の有効性の存否判断の焦点は、配転により従業員が被むる不利益の程度ということになります。しかし判例は(同判決等)、比較的多くの場合、「家庭生活上の不利益は、転勤に伴ない通常甘受すべき程度のもの」として、配転命令は権利の濫用に当らないとしています。

[2]共稼ぎ夫婦への配慮の程度
家庭生活への影響の内、共稼ぎ夫婦の事情を考慮した上で配転命令を有効とした最近の例として、長男を保育園に預けている女性従業員に対する東京都目黒区所在の事業場から同八王子市所在の事業場への異動命令が権利の濫用に当たらないとされたケンウッド事件(最判平12.1.28 労判774-7)があります。同様に共稼ぎの女性に対する転勤を有効としたJR東日本事件(仙台地判平8.9.24労判694-29)があります。なお、帝国臓器製薬事件(最判平11.9.17労判768-16)でも、同様に家庭生活への影響とのバランスを考慮した上で配転命令が有効とされています。
なお、この類型では、単身赴任手当の支給の有無やその額、単身赴任した場合の帰郷旅費の支給の有無や額、転勤先の居住を確保する措置を使用者が取ったかなどにより、労働者の負担の軽減のための配慮があったかどうかなどの要素が考慮される場合もあります(日本合成ゴム事件・津地裁判・昭45.6.11労民集21-3-900、帝国臓器事件・最判平11.9.17前掲参照)。

(3)労働者の家族に対する療養・看護等の必要性を考慮して配転命令を無効とした例
 前述の使用者と労働者側の事情を比較考量して配転命令を無効とした典型例としては、労働者において家族の療養・看護等の高度の必要性がある場合が多いようです。例えば、古くは、家族に病人三人(兄はてんかん、妹は心臓弁膜症、母は高血圧症)を抱えている従業員に対する転勤命令は、転勤によつて家族の生活が危機にひんする虞があり、他方転勤が余人をもつては代替しえないほどの必要性がないことを比較衡量して、著しく均衡を失したものであって無効とした日本電気事件(東京地判・昭43.8.31労民19-4-1111)や、近時の、会社の帯広工場から札幌本社工場への転勤命令につき、業務上の必要性は認められるものの、労働者の長女が躁うつ病、次女が精神運動発達遅延の状況にあり、また両親の体調不良のため、家業の農業の面倒をみているという家庭状況からすると、人選に誤りがあり、労働者に対し通常受忍すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとして、権利の濫用に当たり無効とした北海道コカコーラボトリング事件(札幌地決平9.7.23労判723-62)などが示されています。
(4)配転拒否と懲戒解雇の適否
 なお多くの判例では配転拒否を理由とする懲戒解雇が有効とされていますが、懲戒解雇については、それが極刑であるため、相当性の観点から、(P7-6参照)、その有効性が否定されることもあります(メレスグリオ事件・東京高判平12.11.29労判799-17では、労働者に配転に伴う利害得失を考慮して合理的な決断を下すに足りる情報が提供されていなかったことから、懲戒解雇は性急に過ぎるとされています)。

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