法律Q&A

分類:

HIVに感染していることが分かったら?(P6-12)

(1)職場におけるエイズ問題に関するエイズ指針
 AIDS(エイズ、後天性免疫不全症候群)に対しては、わが国においても、既に、「職場におけるエイズ問題に関するガイドライン」(平7.2.20 基発第75号、職発第97号。エイズ指針)が、エイズの予防を図るため、また、エイズ・ウィルス(HIV)感染者である労働者が誤解や偏見により職場において不当な扱いを受けることがないよう、事業場においても積極的にエイズ問題に取り組んでいくために、事業者が職場におけるエイズ問題に関する方針として告示されています。
(2)HIV感染自体を理由とする解雇はできません
 先ず、エイズ指針も、「HIVに感染していることそれ自体は解雇の理由とならない」としていましたが、HIV感染自体を理由とする解雇が争われたHIV感染者解雇事件判決(東京地判平成7.3.30労判667-14)でも解雇は無効とされています(同旨、 T工業HIV事件・千葉地判平成12.6.12 労判785-10)。この判決では、従業員がHIVに感染していることを理由としてなす解雇は、「到底許されることではなく、著しく社会的相当性の範囲を逸脱した違法行為」と認定して、解雇が無効と判示しています。なお判決は、解雇が違法であると述べた上で、解雇は企業の従業員に対する不法行為となり、企業は従業員に対して民法709条により従業員の被った損害を賠償すべき責任がある、として、企業に従業員に対する慰謝料支払を命じています。
(3)HIV感染に関する秘密の管理・健康情報の守秘義務違反への責任
 なお、エイズ指針も、「事業者は、HIV感染の有無に関する労働者の健康情報については、その秘密の保持を徹底する」としていましたが、判決も、この点につき、雇主や、それと同様に直接に労働者を現実に使用している派遣先企業に対して、HIV感染に関する情報は、感染者に対する社会的偏見と差別があることから、極めて秘密性の高い情報に属するものとし、派遣先企業の社長から派遣元企業に対する派遣労働者の感染事実の連絡がこの違法な漏洩に当たるとして慰謝料の支払いを命じています(P6-10参照)。
(4)HIV感染者への差別的処遇・就業禁止等
 HIV感染者への処遇・就業禁止等についてエイズ指針は、「事業者は職場において、HIVに感染していても健康状態が良好である労働者については、その処遇において他の健康な労働者と同様に扱うこと。また、エイズを含むエイズ関連症候群に罹患(りかん)している労働者についても、それ以外の病気を有する労働者の場合と同様に扱」い、「HIVに感染していることそれ自体によって、労働安全衛生法第68条の病者の就業禁止に該当することはない」としています。
(5)要約
 以上の通り、雇主企業に授業員がHIV感染者であることが分かっても、企業がそれのみを理由として解雇してきた場合にはそれは無効とされ、場合によれば、前述のような解雇自体の違法性や解雇に絡む健康情報の漏洩に関する損害賠償を請求することができる場合があります。又、HIV感染者でも、発症し具体的な労務の提供に支障を来さない限り特別な対応は禁止され、HIV感染のみを理由に配転・出向など(P3-2P3-7等参照)を命じられてもその効力を争そうことができます。
なお、エイズ指針、個人情報保護指針および個人情報保護指針解説によれば(P6-10参照)、企業は、従業員の健康情報の管理に留意し、企業内でのHIV検査をすることも原則として許されませんし、採用時の検査も、HIV感染を理由とする採用拒否もできないものとされています。
(6)今後の企業の対応への注意
 但し、企業も、以上の規制・指導等を踏まえて、今後は、米国におけると同様、HIV感染自体を理由には対応してこないでしょうから、真の理由がHIV感染者差別であることの立証の成否が問題となってくるでしょう。

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