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売主が登記に応じない時は?

弁護士 中村 博(ロア・ユナイテッド法律事務所)
1997年4月:掲載

土地の売主が、代金を支払ったにもかかわらず、登記手続に協力してくれません。どうしたらいいですか。

甲社は、乙社から新しい工場用地として土地を買い既に代金を全額支払ましたが、売主の乙社は権利証をなくしたからすぐに登記が出来ないといって所有権移転登記手続に協力してくれません。何とか早く登記してもらうことはできないのでしょうか。

仮登記処分命令の申立か、処分禁止の仮処分命令の申立を裁判所に行いましょう。

1.登記に関する双方申請主義
 登記の申請は、原則として登記権利者と登記義務者とが共同して行います。これを「共同申請主義」(不登法60条)といい、法は登記簿上の利害が対立する当事者を共同申請させて、登記の真正を担保しようとしています。例外としては、登記権利者・義務者が存在しない所有権保存登記や判決による登記の場合などが挙げられます。

本設問は、所有権移転登記の場合であり当然共同申請主義の適用がある場面ですので、このままでは甲社としては登記が出来ないことになります。
しかしながら、かといってこのまま放置すると乙社が第三者に本件土地を売却して登記を移転させてしまう可能性が多大にあり、そうなると、甲社とすれば幾ら代金を支払ったと主張してみても、対抗要件である登記を有していない以上、甲社は本件土地の所有権を主張できなくなるのです(設問[2-4-1][2-4-2]参照)。

2.権利証とは?
 権利証とは、正確には「登記済証」といいまして、不動産の売買の際に必ず売主から買主に渡される大切な書類であります(設問[2-6-3]参照)。本設問では、売主である乙社が権利証を紛失したとの理由で登記手続への協力を拒んでいるようですが、これはいかにももっともらしく見える嘘の言い訳ですので注意しましょう。
登記済証を申請書に添付することができない場合は、登記済証を提出できない理由を登記申請書に記載して、登記申請を行うことになります。その場合には、登記所から登記を実行する前に、登記義務者に対して、本人限定受取郵便により登記申請があった旨及び登記申請の内容が真実である場合には2週間以内にその旨の申出をすべき旨の通知をします。この通知を受けた登記義務者は、2週間以内に登記申請書に押印した印と同一の印を通知書に押印して必要事項を記載して登記所に提出することになります。したがって、権利証を紛失または焼失したような場合にも登記申請は可能なのです。
3.強制的に従わせる方法は?
 今述べたように、乙社の登記手続への協力を拒む理由が合理的なものでない以上、甲社とすれば、乙社に何とか協力を求めて説得するべきですが、どうしても乙社が任意の協力を拒んだ場合は、次のような法的手段に出るしかないでしょう。

(1)処分禁止の仮処分
売主が所有権移転登記に応じてくれない場合は、所有権移転登記を求める訴訟を提起して勝訴判決を得て登記するのがオーソドックスな方法ですが、訴訟が長引いたりした場合に、せっかく勝訴判決を得てもその間に物件を第三者に譲渡されたりすると勝訴判決を得た意味が失われます。そこで、所有権移転登記請求訴訟を提起する前に民事保全法上の保全処分としての処分禁止の仮処分の手続をとるべきでしょう。この手続は、複雑で高度に専門的で素人には分かりませんが、依頼するにしても法律の専門家である弁護士にしか頼むことが出来ませんし、対象となっている不動産の価格の3割程度の保証金が必要となることに注意すべきでしょう。

(2)仮登記仮処分(不登法108条)
売買契約書などの証拠資料が揃っている場合で登記義務者に登記義務があることが明らかである場合には、管轄の裁判所に申請して仮登記処分決定を出してもらい、裁判所から登記所に対して仮登記の嘱託をしてもらう方法です。この仮登記仮処分決定に基づく仮登記は、通常の仮登記〔設問[2-6-4]参照〕と効力も同じであり、手続の中で保証金を積む必要はありません。(1)と比較すれば、便利な手段です。
その後は、所有権移転登記請求の訴訟を提起し勝訴判決を得れば、終局的な所有権移転の本登記をすることが出来ます。

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