法律Q&A

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入社前研修中の事故と労災認定

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2000年10月:掲載

入社前研修中の事故で内定者が負傷したら?

建設会社のA社では、大卒新入社員に4月早々即戦力となって貰うため、全員に入社前研修を実施していました。研修内容は、最初数日のビジネスマナーなどの講義の後は実習が中心で、高卒者初任給程度の賃金が時間給で支払われ、建築機械の操作の補助などをしながらのハードなものでした。そんな中で、内定者Bが最初の講義の段階で研修施設に来る途中で交通事故に遭いました。又、内定者Cは、実習の段階で足場から転落して大怪我となってしまいました。A社は、B、Cから補償を求められていますが、労災保険などはどうなるのでしょうか?

労災保険が適用されない場合がありますし、適用の有無にかかわらず安全配慮義務の点が問題となります。

1.労災保険の適用の条件は
 研修中の事故に対して、行政解釈は、研修生が労基法9条の「労働者」に当るかどうかという観点から、次のような態度を示しています。先ず、造船会社で実施中の商船学校の生徒について、就業規則の適用や手当の支給などから労災保険の適用を認め(昭和23・1・15基発49)、次に、個人開業医の看護婦見習や(昭和24・4・13基発886)、准看護婦養成所の生徒の実習生(昭和24・6・24基発648)やその生徒の委託医療機関での実習についても(昭和40・1・14基収8846)、一般の看護婦の労働とが明確に区分されていることなどがない限り原則として労災保険の適用があるとしています。
ところが、その後工学部などの学生が工場実習する場合について、大学などの教育目的で、教育機関から委託費が支払われ、実習内容も教育機関での実習規程等により、支給される実習手当も一般労働者の賃金や最低賃金と比較して低く、実費補助ないし恩恵的な納付であると認められる場合、交通費などが支給されていても、労災保険の適用はない、とされています(昭和57・2・19基発121)。又、労働省の非公式なコメントによれば(平成3年3月25日付日経新聞LAW&TAX)、労働省の入社前研修中の事故についての態度は更に厳格のようです。入社前研修中の手当について賃金として支払われたかは「厳密に判断する必要がある」とされ、自由参加のマナーや経済講演などのいわゆる一般研修の場合は、その手当についても「恩恵的に支払われたものとの解釈もできる」(同)とされているのです。しかも、4月前の研修開始日を仮採用として位置付けているケースに対してさえ「正式な労働契約締結前の研修であればやはり認定は難しい」としています。結局、例外的に入社研修前に労災保険の適用を認め得るのは、「研修という名目のもとに、入社前からアルバイトの形で実際に業務を手掛けている場合」、例えば、製造業などで実際に工場に出て作業している最中に発生した事故の場合とされています。
この労働省の態度では、労災適用が認められるのは、結局、【1】研修生に支払われる賃金が一般の労働者並みの賃金であり、少なくとも最賃法の規定を上回っていること、【2】実際の研修内容が、本来業務の遂行を含む研修期間中であり、【3】それらが使用者の指揮命令の下に契約上の義務として支払われているものであること、の三つの事実がある場合に限られように見えます。しかし、これでは本採用された労働者に対する判断との比較では厳格に過ぎて整合性を欠くものと思わざるを得ませんが、実務的対応としては労働省の態度に留意すべきです。
2.安全配慮義務にも注意を
 又、入社前研修中においては、通勤途上の事故は別として、研修施設などの会社内の事故に対しては、労災保険の適用の有無に拘らず、会社が研修生に対し、安全配慮義務を負うことは避けられず(設問[11-2-1])、事故への過失が認められれば損害賠償の責任が発生することとなることに要注意です。

対応策

設問の場合、労働省の判断基準によれば、少なくとも実習段階に入った時点以降は、A社と研修生との間に労基法上の労働契約関係があったと考えられるでしょう。従って、労災保険の適用については、Bの場合には難しいでしょうが、Cの場合は適用があると考えて良いでしょう。次に、損害賠償の問題に関しては、Bのような通勤途上災害について使用者の賠償責任が問題となるのは、本採用後の場合でも、その交通機関が使用者の提供したバスなどの場合に限られ、そのような事情にない限り、Bに対するA社の責任はありません。しかし、この場合もA社は福利厚生的観点からの見舞金などの対応は求められるでしょう。Cの場合は、転落防止措置義務の違反などがある場合にはA社の安全配慮義務違反は免れないので、Cの過失相殺や保険給付の控除は別として(設問[a href=”houmu01-02-01.html”>11-2-1]参照)、誠意をもって損害賠償に応じて処理するべきでしょう

予防策

入社前研修を実施する会社としては、事故の可能性(リスク)を考慮して、どの程度の研修を実施すべきかを決定しなければなりません。完全にリスクを回避したいのであれば、研修をしないか、文字通り一般研修にとどめるべきでしょう。しかし、4月からの即戦力を期待したり、前に述べた本採用前の選別のための主要な方法として位置付ける場合は(設問[9-1-1])、積極的にアルバイト労働契約書を結び、賃金を支払って、労災保険の適用を求め(雇用者数の中に入れ保険料も納付)、更に、上積補償に対するための損害保険による対応をなすべきです(設問[11-2-1]参照)。特に労災の認定が得られない場合に備えて過労死対策におけると同様に(設問[11-2-2])、労災認定の有無に拘らず支給される損害保険会社の傷害保険や生命保険などへの加入が検討されるべきでしょう。

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