法律Q&A

分類:

早出・残業の命令には従わなければならないのか?(P4-5)

(1)始業・終業時刻の繰上げ・繰下げとの関係
 先ず、早出・残業の意味を確認しておきます。労働法や人事・労務管理の実務では、業務の都合ある場合には、始業・終業時刻の繰上げ・繰下げがあるという労働時間変更条項が終業規則に定められ、その業務の必要がある以上は、通常の始業時刻より早く出勤すことが義務付けられることになります(変形労働時間制<P4-7参照>の場合には、JR東日本事件・東京地判平12.4.27労判782-6は、その変更条項の変更の必要性等につき具体性が必要としている)。なお、この場合に、繰上げて早出した時間分につき終業時刻を繰上げて早退すれば、時間外労働は発生しません。これに対し、早出したにも拘わらず、終業時刻が、繰上げた時間相当分の早目の時刻以降となれば、法内外いずれかの残業(いわゆる早出残業)の問題となります。
(2)時間外労働・残業させるには36協定が必要
 労基法の時間規制(P4-1参照)を超える残業、つまり法定時間外労働には、前述の通り(P4-3参照)、原則として、36協定の作成とその届出が必要です(同36条)。
(3)36協定だけでは残業させられない
 しかし、36協定の締結・届出だけでは個々の労働者に対し協定上定められた時間外・休日労働を当然に義務付けるものではありません。個々の労働者の時間外・休日労働義務が発生するためには、労働契約上そのような義務が認められなければならなりません。この点に関して、最高裁は、「使用者が当該事業場に適用される就業規則に当該三六協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは、...労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負う」、との判断を示し、就業規則に時間外労働に関する規定があれば原則として時間外労働義務があることを認めています(日立製作所事件・最判平3.11.28民集45-8-1270)。
なお、いわゆる法定時間内の法内残業の場合にも、残業義務の根拠が必要で、就業規則の定めがその根拠となることは同じです。
(4)就業規則に基づく残業命令違反には懲戒解雇もあり得ます
 そして、最高裁は、前掲・日立製作所事件で、時間外労働の具体的内容は36協定に定められているが、同協定は、その時間を限定し、かつ、一定の残業の必要ある事由を特定しているのであるから、結局就業規則の規定は合理的であり、一部の事由はいささか概括的、網羅的ではあるが、企業が需給関係に即応した生産計画を適宜かつ円滑に実施する必要性は労基法36条の予定するところで相当性を欠くとは言えないとして、時間外労働を拒否した労働者の懲戒解雇が正当であるとしました。
(5)1回の残業拒否が直ちに懲戒解雇ではない
 但し、注意すべきは、残業拒否のみで直ちに懲戒解雇が認められることは通常ないということでしょう。例えば、学説などでも、残業命令拒否に対する懲戒処分については労働契約上の義務違反という責任は免れないとしても、次の点に留意すべきとの指摘があります。つまり、労基法36条に基づく時間外・休日労働は、同法があくまで例外として許容するもので、通常の労働時間に対する遅刻・欠勤という義務違反とは性格が異なるはずで、懲戒処分としての「量刑」は、それ相当に軽微なものでなければならない、という指摘です。前掲・日立製作所事件も、1回の残業命令違反でいきなり懲戒解雇というものではありません。懲戒解雇が最終的な処分であるという点からの配慮の必要性については後述P7-6で詳しく触れることにしますが、訓戒や懲戒解雇よりは低い懲戒処分を含めた勤務態度の改善への企業の努力が重ねられても残業拒否が続けられるような場合には、懲戒解雇されても止むを得ないでしょう。

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