- (1)自己都合退職と会社都合退職の意味
- 退職の意味に関しては前述しましたが(P7-1参照)、ここで言っている「会社都合退職」は、多くの場合、会社の退職勧奨による労働契約の合意解約としての退職を示しますが、言葉の正確な用法には反しますが、それだけでなく、会社側のリストラなどの理由による解雇を含めて言われています。但し、言葉としては会社都合となる筈の解雇の中でも、従業員の責任による諭旨解雇・懲戒解雇(P7-6参照)や、そのような理由に基づく勧奨退職などの労働者の責めに帰すべき重大な事由による解雇や退職(帰責事由ある退職)は特別な扱いを受けます。
この自己都合退職(特に、正当な理由ない場合)と会社都合退職の違いは、事実上、職歴面から再就職への難易をもたらす他、以下の通り、一般には、退職金と失業保険給付の取扱いで大きな差異をもたすことになります。
- (2)退職金の取扱い上の違い
- 退職金制度は、後述(P7-12参照)するように法的な義務ではありませんが我国の企業では広く普及した制度です。そこでは多くの場合、自己都合退職と会社都合退職では、後者の方が支給率が高いなどの格差があります。勿論、会社都合でも、多くの場合、前述の帰責事由ある退職には、退職金の一部又は全額の支給制限があります。
- (3)雇用保険による失業給付上の違い
- [1]退職事由による待期期間の違い
雇用保険法による失業給付面での違いは、先ず、失業給付のいわゆる待機期間としての給付制眼の適用をめぐって現れます。基本手当は、離職後最初にハローワークへ来所して求職の申込み・受給資格の確認を受けた日から失業の状態であった日が通算して7日間経過してからでないと支給されません。これを待期期間といいます。そして、自己の責に帰すべき重大な理由により解雇されたり(帰責事由ある退職)、正当な理由がない自己都合によって離職した場合は、通常の待期の7日間に加え、3ヶ月間支給がされません(雇用保険法33条)。[2]失業給付を受けることができる日数(所定給付日数)での違い
更に、下記の図解の通り、退職事由の相違は、失業給付を受けることができる日数(所定給付日数)でも大きな格差につながっています。つまり、離職の理由が倒産・事業の縮小・解雇など事前に準し難い会社都合退職者は、「特定受給資格者」として手厚い保護を受けることになります(同22条、23条)。これに対して、定年など事前に準備できるものはこの保護が適用されませえん。(一般の離職者)
被保険者期間
離職時の年齢1年未満 1年以上
5年未満5年以上
10年未満10年以上
20年未満20年以上 65歳未満共通 90日 120日 150日 180日 (倒産・解雇等による離職者)
被保険者期間
離職時の年齢1年未満 1年以上
5年未満5年以上
10年未満10年以上
20年未満20年以上 30歳未満 90日 90日 120日 180日 - 30歳以上
45歳未満90日 180日 210日 240日 45歳以上
65歳未満180日 240日 270日 330日 60歳以上
65歳未満150日 180日 210日 240日 ※障害者など、就職困難な方の給付日数は、別途定められています。
- (4)退職理由明示請求とその際の注意
- 以上の退職事由による違いを踏まえ、納得の行かない場合、従業員は、企業に対して、退職事由を明示した使用証明書の交付を求め(労基法22条1項)、その事由を、紛争調整委員会のあっせんなどで争そうこともできます(P11-7参照)。しかし、従業員としては、企業の退職理由に不満な場合でも、長期的に自己のキャリア形成上、主体的な自己都合退職をしたことにすのが良いか、短期的に多くの金額を獲得するため会社都合退職とするのが良いのかを総合的に判断して、対処方法を選択すべきでしょう。