- 企業社会の中で、一般的に、企業が労働者に対して「人事権」を持っていて、この人事権に基づき、労働者の業務内容や職場を変えたり、出向させたり、昇進させたり、させなかったり、降格させたりできる、などと説明されたりすることがあります。
では、一体、この人事権とは、法的にはどんなものなのでしょう(以下は、菅野和夫「労働法」第5版補正2版73以下による)。これをもっとも広い意味で
捉えるならば、労働者を企業組織の構成員として受け入れ、組織の中で活用し、組織から放出する権限を指す、と言われています。狭い意味では、人事権とは、
採用、配置、異動、人事考課、昇給、休職、解雇など、企業組織における労働者の地位の変動や処遇に関する使用者の決定権限を指しています(例えば、安田信
託銀行事件・東京地判昭60.3.14労判451-27では、人事考課は、その性質上企業の「広範な裁量に委ねられている」とされています)。
しかし、後述の配転や出向等に関して詳述します通り(P3-2、P3-3、P3-4、P3-5、P3-6、P3-7、P3-8参照)、人事権は、企業に無制限に認められているものではありません。人事権は、いくつかの局面で、法律や判例などにより様々な重要な規制を受けています。例えば、解雇の法規制(P7-5、P7-6、P7-7、P7-8、P7-9参照)、均等待遇の原則(P8-2参照)、女性の機会均等(P9-1、P9-2参照)、不当労働行為の禁止(P11-1参照)、などの制限を受けています。更に、労働協約(P11-2参照)、就業規則(P2-1、P2-4、P2-5参照)、労働契約などの規制(P3-2、P3-3、P3-4、P3-5、P3-6、P3-7、P3-8参照)も受けることがあります。
したがって、正確には、企業の持っている人事権とは、以上の法律や判例、労働協約等の各種法規制の範囲内で、上記の通り、企業組織における労働者の地位の変動や処遇に関して一方的に決定できる権限である、ということになります。
法律Q&A